[レポートの概要]
オフィス・家庭向けのプリンターをはじめ、産業用機器や半導体などを製造・販売するセイコーエプソンは、日本の製造業の中で先頭を切って、自然エネルギーの電力100%による事業運営体制を確立した。2021年4月に国際イニシアティブの「RE100」に加盟して以降、全世界の事業拠点で使用する電力を相次いで自然エネルギーに切り替えた。グループ全体で年間の電力使用量は8億kWh(キロワット時)を超えるが、2023年末までに切り替えを完了して、2024年1月から全拠点で自然エネルギーの電力を100%使用している(図1)。
図1.セイコーエプソンの電力調達状況

GWh:ギガワット時(=100万キロワット時)
出典:セイコーエプソン
自然エネルギーの電力の調達方法を見ると、小売電気事業者から供給を受けている割合が69%で最も多く、国内では85%を占めている(図2)。コストと安定供給の両面から調達先を選択するのが基本方針だ。そのうえで事業拠点が立地する地域のCO2(二酸化炭素)排出削減に貢献するために、電力の地産地消を重視する。国内の工場の多くは、セイコーエプソンの本社がある長野県に集中している。県内の事業拠点の電力はすべて「信州Greenでんき」に切り替えた。
図2.自然エネルギー(再生可能エネルギー)の使用量と調達方法

出典:セイコーエプソン
信州Greenでんきは長野県企業局が運営する17カ所の水力発電所の電力を供給するメニューで、小売電気事業者の中部電力ミライズが販売している。水力発電所は運転開始から長年を経過している場合がある。セイコーエプソンが加盟するRE100では、運転開始から15年以内の発電設備による自然エネルギーの電力を使用するように求めている。さらに水力発電とバイオマス発電については、持続可能な方法で発電していることを確認する必要がある。セイコーエプソンは長野県企業局と中部電力ミライズに対して、RE100の要件に合う水力発電所を選定して電力を供給するように要請している。
既存の水力発電所から電力を購入するだけではなく、新規の水力発電所の開発にも取り組む。信州Greenでんきの特徴は電力の地産地消に加えて、電気料金の一部を水力発電所の開発に活用する点にある。2021年から長野県企業局、中部電力ミライズ、セイコーエプソンの3社で「信州Green電源拡大プロジェクト」を開始した。信州Greenでんきの収入の一部を活用して、長野県企業局と中部電力グループが県内に水力発電所を新設する(図3)。すでに中部電力グループが2カ所の水力発電所の運転を開始し、長野県企業局も2025年内に1カ所を運転開始する予定だ。3カ所を合わせると、年間に約3500万kWhの電力を供給できる。
図3.水力発電所の電力を地産地消しながら新規の電源開発を促進する「信州Green電源拡大プロジェクト」

セイコーエプソンは水力発電所の開発支援だけではなく、国内と海外の事業拠点で太陽光発電設備の導入を拡大するほか、長野県内でバイオマス発電所の建設計画にも着手した。バイオマス発電所は地域の森林で発生する間伐材などを燃料に利用して、2026年度に運転を開始する予定だ。地域のCO2排出削減と経済循環に貢献する。さらに県内の小水力発電所の電力をオフサイトPPA(電力購入契約)で長期に購入する取り組みも開始した。(詳しい内容はレポートで紹介)