エネルギー危機と自然エネルギーの役割トーマス・コーベリエル理事長講演(2022/6/14、東京)

2022年6月22日

in English

本稿は、6月14日に開催したイベント「エネルギー危機と自然エネルギーの役割」におけるトーマス・コーベリエル理事長の講演を文章化したものである。この講演では太陽光発電、風力発電コストの劇的な低下により、発電部門だけでなく、交通、産業部門でも自然エネルギー発電により化石燃料の代替が進んでいること、またロシアのウクライナ侵略が引き起こしたエネルギー価格高騰で、こうしたエネルギー転換が加速していることが紹介されている。更にロシアが化石燃料と原子力に依存する古いエネルギー超大国であり、自然エネルギーへの転換を阻むために偽情報を拡散しているが、米国でも欧州でも、こうした偽情報に騙されることなく、エネルギー効率化と自然エネルギー開発が加速していることが紹介されている。最後にコーベリエル理事長は、日本とEUがエネルギー転換で共通の利益を有していること、日本でも自然エネルギー拡大を加速すべきと指摘した。

本講演の動画と資料

私たちは非常に特別な局面を迎えている。化石燃料価格が誰も見たことがない水準に高騰している。厳しい状況ではあるが、環境負荷が少なく収益性の高いエネルギーを加速度的に広める好機とも言える。その背景には、数十年前から進んできた技術の普及により、自然エネルギーコストが下がり、その結果として電気料金が下がるという状況がある。

太陽光発電コストの最安値は1セント/kWhまで低下

図1で示しているのは、世界の太陽光発電容量の動向だ。この数年、太陽光発電の開発は中国が主導している。日本はまだ世界のトップクラスにはいるものの、重要なのは、中国が太陽光発電の主要な設置国になっただけでなく、太陽電池やソーラーパネルの製造面でも産業界をリードするようになった点だ。従来は日本が主導し、多くの欧米企業も活躍した分野だが、数年前から中国にトップの座を奪われている。この先数年間で、米国や欧州は多大な努力により、この技術の主要な供給国に復活することが予想される。日本にすでにある産業技術や経験・知識を考えれば、日本も同様にカムバックを検討する余地があるのではないだろうか。

図1:主要国の太陽光発電容量の推移(1996-2021)

2016年には劇的なスピードで太陽光発電価格が下落した。2016年5月に世界で初めて太陽光発電による調達電力が1kWhあたり3セントを下回った。その数ヵ月後には2.5セントを下回り、さらに2セント、1.5セントを切る、と価格下落は続いた。とうとう昨年サウジアラビアにおいて、太陽光発電の価格が1kWhあたりわずか1セント程度という世界最安値を記録し、今もその地位を保っている。この電気料金は驚くほど安い。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は「世界史上最も安い電気代である」と述べたが、この言葉には反論の余地はないだろう。

このような極端な低価格は、確かに日射量の多い国で達成されたものではあるが、日本や北欧のような国の日射量は1平方メートルあたり半分相当と考えられるため、世界をリードするプロジェクトと同等レベルで効率的に建設することができれば、太陽光発電のコストは2倍以内に収められるはずである。我々には、そのような効率的な建設に関する知識があるのだから。

風力発電も中国がリード

世界の風力発電の設備容量も太陽光発電とほぼ同じ水準まで増えている。前述の太陽光のグラフにある通り、太陽光の設置容量も800GWを超えている。昨年は設備容量において太陽光が風力発電を抜いたように見えるが、その差は非常に小さく、統計の不確実性を考慮すれば両者の設備容量は同じレベルである。しかし、風力が発電量で上回るのは、設備容量から明らかである。世界的に見ても、設置ギガワットあたりの発電量は、風力が太陽光の約2倍となっている。

風力発電でも、中国は世界をリードする存在となった。2005年から2010年にかけて、中国は風力発電がほぼゼロの状態から、世界のどの国よりも多く設置されるという目覚ましい発展を遂げた。直近の20年、少なくとも15年間で、中国では年間を通して1時間に風力発電2基を新設し続けたという計算になる。この分野では、ほかに米国、ドイツ、インド、スペインが上位を占めている。私の母国スウェーデンも、国民一人当たりで計算すると上位に入り、現在では電力の20%程度を風力発電でまかなっている。一方、日本は上位に入っていない。陸上、特に北海道、そして洋上における豊富な資源にも関わらず、日本が開発に遅れをとっているのが惜しまれる。日本の風力発電は将来性に富み、電力を十分に供給する余力があるはずだ。

図2:主要国の風力発電容量の推移(1980-2021)

洋上風力発電のコスト低下

2016年は、風力発電のコストも急激に下落した。2016年のモロッコにおいて、1MWhあたり25ドルから30ドル、つまり1kWhあたり2.5セントから3セントという契約が世界で初めて締結された。そして2017年には、エネル社がメキシコの風力発電で1MWhあたり17ドル70セントという価格を提示し、これは現在でも破られていない陸上風力発電の最低価格の記録のはずだ。北欧のコスト水準も似たような状況にある。1kWhあたり2セントから3セントが可能になっており、特に日本にも関係する注目すべき点は、劇的な洋上風力発電のコスト下落だ。これも2016年のことである。

2016年夏、デンマークのDONG社、今は皆さんにもなじみのある名称に変わったオーステッド社が、北欧のオランダ沖で、洋上風力の電力供給価格を1MWhあたり70ユーロ強で提示した。まだ高いが、当時としては史上最低価格だった。

そのわずか2カ月後、スウェーデンの電力会社ヴァッテンフォールが、デンマークの西側沿岸の洋上風力発電の入札を1MWhあたり60ユーロで落札した。さらにその2カ月後、ヴァッテンフォールはデンマーク東海岸沖のクリーガース・フラク・プロジェクトを1MWhあたり50ユーロを下回る価格で落札している。わずか数カ月でコストが劇的に下がったのは、設備稼働率の向上、北欧の洋上風力の規模拡大、そしておそらくは建設に携わる人員やすべてのインフラを継続的に活用できるようになったこと、つまり作業員は休業期間を挟む断続的な雇用から継続的な従業が可能になり、クレーン等の設備も同様に継続活用が可能になったたことが主な要因と考えられる。

この契約締結時には、現実にあり得ないほど安すぎると批判もあった。しかし、昨年秋には予定より早く、また予算を下回る費用で発電所が竣工した。新型コロナウィルスの感染拡大にも関わらず、このように早くて安いプロジェクト完了を可能にしたのは、ヴァッテンフォールの風力発電の責任者が述べたように、コロナ禍では工事現場への不要な訪問が禁じられ、「私たち上司が現場に行って邪魔をすることがなかったので、現場のスタッフはただ作業に集中できた」ためで、コロナの巧名かもしれない。

洋上風力発電のコストの直線的な減少は継続しなかったが、もし継続していれば、2017年の夏には洋上風力は無料になっていたはずだ。一方で、2017年の初めには、企業が補助金なしで洋上風力発電を行うことを申し出た最初の契約が行われた。彼らは洋上風力発電で電気を作り、スポット市場で他の発電事業者と競争できることに自信を持っていたからだ。そして、その市場価格は洋上風力発電所の費用をすべて賄うに十分なものであることも。

ここで入札参加企業が得たのは、使用海域を割り当てと送電網への接続だ。オランダも同じように、全ての入札者に補助金なしでの発電を前提とする調達を実施した。この入札は、どちらかというと美人コンテストや能力競争のようなもので、入札企業は、経験値・信頼性、そして実際に建設すること、その特定海域から大量の電力を供給できることを示す必要があった。そして、その自信を裏付けとして、オランダ政府に対して、約束したことができなければ多額を支払うことも求められた。それは決して小さな金額ではなく、何百万ユーロという額であった。

最近、デンマークでも同じような調達が実施された。多くの企業が最低価格を提示し、また、設備を自前で用意する形である。そして、契約がやや複雑で、現時点では、落札した企業は、海域での発電使用権として、デンマーク政府に約4億ユーロを支払うことが見込まれている。つまり、スポット市場で利益を得て、この海域利用権の対価をデンマーク政府に支払うことになる。北欧の洋上風力発電は、電力市場で他の資源との競争力を発揮しているに留まらない。政府や他の需要家に貢献できるような利益を上げている。この5、6年の間に、驚くほど急速に発展してる。

図3:洋上風力発電価格の急速な低下

電力だけでなく他のエネルギー利用も代替可能に

この発展は、発電システムにおいて他の電力源の代替を可能にしただけではない。今や、自然エネルギーによる電気は、原油の市場価格などよりも安価だ。これは、原油価格が非常に高い今日に限ったことではない。原油価格が1バレル60ドル台だった1年前には、すでにそうだった。

自然エネルギーによる電力が石油よりも安くなったという事実は、石油の市場価格が1バレルあたりのドルで示されているのに対し、電力のコストや価格はメガワットアワーあたりのドルで示されているということによって隠されている。そこで、単位を変換をする必要がある。現在、原油価格は1バレルあたり約110ドルだ。これは1MWhあたり65ドルから70ドルの間に相当することがわかる。自然エネルギーによる電力は、1MWhあたり10ドルから30ドルのコストで生産できるから、自然エネルギーによる電力の総コストは原油によるエネルギーコストの半分以下になったことになる。これは自然エネルギー発電と原油発電のコスト競争のことではない。それは原油発電のエネルギー含有量と自然エネルギー電力のコスト比較である。

自動車、船舶、航空機も電化が可能に

自然エネルギー電力の開発がこれだけ進んできた今、他のセクターで自然エネルギーの電力を石油の代わりに使うことが可能になった。そして、急速に開発が進んでいる分野のひとつに、運輸部門がある。まず、道路交通について、自然エネルギー電力の利用率が高い国は、電気自動車の割合が高い国にもなりつつある。ノルウェーでは、新車販売台数の80~90%がプラグイン車だ。プラグイン電気自動車の普及が遅れている自動車メーカーは苦しい状況に直面している。

自家用車だけでなく、バスの電化も進んでいる。世界の多くの国で電動バスが導入されており、その背景には気候変動、経済、地域の大気汚染といった理由がある。バスの電化が非常に進んでいる都市の一つ、中国の深?市では、市営バスがすべて電気自動車に切り替えられた。2018年の記事によると、当時で16,000台、現在は20,000台以上の電動バスが深?市を走っている。フェリーも同様に電化が進む。数年前に作られたノルウェーの電動フェリーは、困難な事業と考えられていたため、国の補助金をかなり使って作られた。しかし、このフェリーの運営会社から聞いた話によると、非常に収益性が高いことが後からわかり、結果的に補助金は必要ないくらいであった。短距離のカーフェリーを運航する多くの同業他社が同じことを言っており、スウェーデンとデンマーク間を結ぶさらに大型のカーフェリーも電化された。さらには、航空さえも電化が可能だ。

実は15年ほど前、私は、充電池は重すぎるから電気航空機は不可能だろう、と大勢の聴衆の前で話したことがある。私の講演が終わってから、客席から一人の感じのいい青年が「このウェブサイトを見てください」と書かれたメモを持ってきた。リンク先を見てみると、そこにはすでに中国のある会社が15年ほど前に、航続距離が数時間の2人乗りバッテリー式航空機を提供していることが書かれていた。ヨーロッパの大手航空機メーカーであるエアバス社は、バッテリー駆動の2人乗り練習機を生産している。現在では、世界の数社がより大型の電動航空機を開発している。そのうちの一社、ハートエアロスペース社は、19席の航空機を製造中だ。500kmまでの航続距離であれば、従来の航空機よりも電動航空機の方が整備や制御が容易で、安全性が高く、コストも安くなることが示されている。また、小型の航空機は、都市間の移動の頻度が高く、また移動時間も短縮できる。

運輸の電化、バッテリー式電気自動車の開発には、充電池の製造規模の拡大が必要であり、日本が技術開発に大きく貢献した。製造規模拡大により、充電池のコストは下がった。この10年間で、蓄電池1kWhあたりのコストは9割減、10%にまで低下した。これは主に、規模の拡大と業界内で積んできた経験のおかげである。

蓄電池による電力系統の安定化

結果として、電力系統においても、短期的な安定性確保のために電池を活用することが視野に入ってくる。旧来の電力会社では、系統の安定した周波数を保証する方法として、火力発電の慣性力が必要だという主張をする傾向がある。しかし、低価格の大型電池とパワーエレクトロニクスを使えば、さらなる低コスト化が実現できる。数年前にテスラが導入した南オーストラリアの電池は、コスト削減を証明し、今ではオーストラリア、米国、英国等で大型電池の導入が急速に進んでいる。特に米国とオーストラリアは、導入する電池の規模で競い合っており、いま現在、世界で最も大きな電池がどれなのかを把握するのが難しい状況だ。

図4:蓄電池による電力系統の安定化

導入された電池の多くは、インフラが整備済みの、閉鎖された化石燃料発電所に設置されており、これまで1日数時間しか稼働していなかったガス火力発電所を、電池で代用することもある。電池は維持費が安く、太陽光や風力の余剰電力を蓄えておくことができるため、ピークロード時に高価なガスを燃やす必要があった夕方以降に使用することができるからだ。

しかし、電池による送電網の安定化は、必ずしも送電網専用の大型電池で行うとは限らない。ドイツでは、フォルクスワーゲンが電力会社を設立した。自動車メーカーである同社の電力会社によって、自社製の車のオーナーに電力を提供するという構想なのだ。車のオーナーと契約し、電力会社が電池容量の一部の使用を許可してもらう仕組みである。そしてその容量は、地域の送電網に系統安定化サービスを提供するために使われる。そこで行われる取引では、電気料金が安い時間帯に電池を充電し、電気が高いときに送電網に電気を売り戻すという方法だ。そして、この会社の構想では、電池の運用で十分な収益を得られるため、電気を車の持ち主に無料で提供できるというものである。まだ確約はされていないが、電池の効率的な活用により、無料の電気提供が可能になるという野望を持っている。また、米国にも同様の構想を持つ企業があり、現時点では非常に安価な充電を提供している。

自然エネルギー電力が天然ガスを代替

単位エネルギーあたりの化石燃料は、原油が常に最も高価であるが、通常2位にくるのは、化石メタンガスである。メタンガスの価格と電気料金を比較するのは、原油の価格と電気料金を比較するのと同じぐらい難しい。ガス価格の単位としてよく使われるのは、100万英国熱量単位(MMBtu)あたりの価格(ドル)だ。科学的な国際単位系(SI)に慣れ親しんだ我々には、この英国熱量単位での計算が恐ろしく複雑だが、MMBtuあたりの典型的なガス価格は、5ドルから10ドル、あるいは12ドルくらいである。つまり、図5(左)の通り「1MWhあたり約24ドル」という数字が導き出される。世界の優れた太陽光発電や風力発電のプロジェクトは、もっと安く発電しているはずであるが、この分野ではまだ競争が続いていた。

しかし、このウクライナ戦争が起こり、ロシアからのガスの調達が困難になり、突如状況が一変した。ちょうど1年前の私や他の人たちの想像と比較すると、今はスケールが違う。今日、ガス価格は、以前よりはるかに高騰している。自然エネルギーによる電力は、天然ガスよりもずっと安い。その結末がどうなったかについては、後ほど触れる。

図5:ウクライナ侵略がもたらした天然ガスコスト比較の変化

石炭は化石燃料の中で最も安価で、扱いが難しく、汚い。輸送の時にもお金がかかるし効率的なエネルギーではない。有効なエネルギーに変えるには、かなりコストがかかり、効率もそれほど高くないのに、価格が低く抑えられている。典型的な石炭価格は1トンあたり60ドルなので、1MWh(メガワット時)あたり約8ドルに相当し、効率や環境に及ぼす影響を無視すれば、自然エネルギー電力は直接競争することは難しい。しかし、石炭もここ数カ月で劇的に価格が高騰している。

図6:ウクライナ侵略がもたらした石炭コスト比較の変化

鉄鋼生産でグリーン水素が石炭を代替

古い図式にはもうあてはまらなくなっており、自然エネルギーによる電力は石炭よりもずっと安い状況になっている。ここで注目すべきなのは、自然エネルギーによる電力が石炭から作られる電力より安いということではなく、自然エネルギーは単位エネルギーあたり、石炭のエネルギー含有量よりも安いということだ。つまり、化石燃料は産業界でもっと置き換えることができることを意味する。初期段階のヨーロッパの試みとして、スウェーデンの鉄鋼会社SSAB、採掘会社LKAB、電力会社ヴァッテンフォールがコンソーシアムを結成した。鉄鉱石を化学的に還元して海綿鉄にする際に、石炭の代わりに水素を使うというアイデアだ。

この試みがうまく機能することを初めて実証したのは、昨年の夏、パイロットプラントで最初の海綿鉄を生産した時だ。2ヵ月後の8月、SSABはこの海綿鉄から最初の鋼鉄を生産した。さらにその2カ月後、自動車メーカーのボルボが、化石燃料を使わない鉄鋼を使った最初の自動車を製造したのだ。

Hybrit社も、競合のH2Green Steel社も、自社で生産工場を建設していなくても、この化石燃料フリー鋼材の購入契約を結ぼうとする顧客が多数存在する状況を享受している。世界における化石燃料フリー鋼板の需要は、明らかに大きい。化石燃料を使用しない鉄鋼に関心を持つのは、自動車を製造する自動車産業である。カーボンフリー鋼や石炭燃料フリー鋼を求める理由は、自動車の電動化に伴い、鉄鋼が自動車のライフサイクルで最も重要な温室効果ガス排出源のひとつになるからだ。実は、自動車の大部分を占めるのは鉄鋼の生産なのだ。そのため、ライフサイクル性能に優れ、化石燃料を使用しない鋼材が求められているのである。

工場が建設される前から、将来化石燃料を使わない製鉄所から見込まれる生産量を契約している企業の例がいくつかある。新しい産業プロジェクトに携わっている人にとって、プラントを建設するための資金を調達する前に製品が売れていることはとても良いことだ。このような状況であれば、資金調達もしやすくなる。

ウクライナ侵略が世界の脱炭素を加速する

さて、ここで、ロシアのウクライナ侵攻によって、この半年間に生じた危機について話を戻そう。先ほど示した価格高騰は、世界のエネルギー市場に劇的な影響を及ぼした。そして、建設的な言い方をすれば、プーチンは戦争を仕掛けることによって、世界の気候政策立案者でさえができなかったこと、つまり化石燃料の燃焼コストを世界的に上昇させるということを達成したと言える。戦争がもたらした市場への影響は、全世界に炭素税をかけた効果に似ている。エネルギー効率性と自然エネルギーの収益性はこれまでになかったほど高くなった。環境問題を理由に投資した人、あるいは政策上の理由で投資した人、またはそのの他どんな理由があったとしても、すでに投資した人は、今大きな利益を享受し満足している

図7:国際的な炭素税に匹敵するエネルギーコスト上昇

しかし、こうした価格上昇は、今後の化石燃料の市場を見れば、しばらくは高止まりすることが予想される。エネルギー効率の向上や自然エネルギー電力に投資するのは、今が絶好のチャンスだ。そして、化石燃料の価格上昇幅はあまりにも大きいため、最も野心的な気候対策の関係者が話してきた大胆な話でさえ、純粋に市場経済の原理から、採算が合うようになっている。気候政策上の理由から投資や対策を準備していた人たちが、今それを実行し、その努力が純粋な市場原理によって収益がもたらされる素晴らしい機会なのだ。

ロシアは古いエネルギー超大国

現在のこうした状況と、世界で炭素税導入によってもたらされた結果の違いは、ウランの価格が上昇していることにある。ロシアは、ウラン燃料の主要な供給国であるため、原子力発電は世界的な炭素税によるメリットを享受できていない。ロシアが起こした戦争、および地政学的な態度が、エネルギーシステムにどのような影響を及ぼすのか、またロシアは何が理由であのようなことをしているのか、それをまず理解するには、ロシアが古いエネルギー超大国であるということを認識することが必要だ。ロシアは、世界最大の天然ガス輸出国、世界最大の石油純輸出国だと言える。また、旧ソ連の独立国家共同体と呼ばれるカザフスタン、ウズベキスタンとともに、全世界のウランの半分以上を供給している。原子力分野におけるこうした国々の重要性は、2019年以降、中国以外で始まった原子力建設プロジェクトはすべて、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が技術を提供しているプロジェクトであるという事実によっても示すことができる。現在、原子力産業におけるプロジェクトの数はそれほど多くはなく、目立った動きもない。しかし、中国以外で動いているプロジェクトはすべてロスアトム社によるものであり、中国国内の原発の一部もそうなのである。

図8:ロシアは古いエネルギー超大国

ロシアとその他の中東の化石燃料輸出国と比較すると、先ほど示した自然エネルギー、特に太陽光発電の進歩についての図では、中東の石油輸出大国の多くが今は太陽光発電のパイオニアであることは注目すべき点だろう。これらの国には、非常に高い教育を受けた指導者がいて、自分たちはエネルギー大国であり続けるだろう、これまで以上に、低コストの太陽光発電と「エネルギー集約型産業を他の地域からこの地域に誘致し、燃料を輸出するだけだった時よりもはるかに多くの経済利益を得ることができる」、中東に産業を誘致することができると言っている。

ロシアには、こうした戦略も、経験も、産業能力もなく、昔ながらの化石燃料と原子力産業の継続に依存している。このような背景から、プーチンがなぜ自然エネルギー拡大に対して後ろ向きな発言をするのか、ご理解いただけるだろう。風力発電は「鳥やミミズにとって有害」だと言っている。炭素ゼロの社会では、私たちは洞窟に戻される」とも言っている。ドイツの原発廃止を「意味がない」と揶揄し、欧州の価格高騰の原因は自然エネルギーによるものだと主張している。

ロシアが自然エネルギーの誤情報を拡散している

このようなことを公の場で言っているのはプーチン自身だけではないので、これは深刻な事態だと言える。というのも、ロシアは、まさにこのことに注目し、多くの場合嘘の、時には部分的には正しいがほとんどが間違った情報を流し、自然エネルギーの拡大を阻止しようとしている。国際エネルギー機関IEA(事務局長)のファティ・ビロル氏は今年初め、欧州の価格上昇と変動が自然エネルギーによるものだという偽情報について、非常に強い声明を発表している。そして、「これは自然エネルギーやクリーンエネルギーの危機ではない。天然ガス市場の危機である。もちろん、この業界に携わる者にとっては、当たり前のことであり、それ以外のことを信じられる人はいないだろう。しかし、このような情報が、いわゆるソーシャルメディアを通じて世界に浸透し、しばしばロシアの関心に触発されて、混乱を招き、発展を遅らせていることは、やはり問題である。

国防生産法を発動したバイデン政権

世界各国政府はこのような偽情報に簡単に騙されることはなく、公表されている戦略のいくつかを見てみるとそれは見てとれる。米国のバイデン大統領は3月末の講演で、ロシアの侵攻による経済的影響に対抗する措置として、短期的には緊急用の石油備蓄の一部を放出することを指示した。それは、国内の原油価格の上昇を抑える戦略だ。

図9:米国のエネルギー戦略

中期的には、連邦の土地からもっと石油やガスを採掘するための利権を持っている米企業に対して、待たずに早く採掘できるようなインセンティブを与えていたのだ。もちろん、これもかなり短期的な解決策だ。長期的には、エネルギー効率を高め、自然エネルギーによる発電を大幅に増やし、輸送部門と熱供給部門を電化するため積極的で野心的な計画を発表した。日本を含む世界の多くの国で、暖房はかなりの程度天然ガスに依存しており、その天然ガスは現在、価格が恐ろしく高騰している。

さらに重要なことは、バイデンはスピーチの中ではっきりと、これはもはや単なる気候問題や環境問題ではなく、国家安全保障の問題だと言ったことだ。その結果、彼は国防生産法(朝鮮戦争時に制定された法律で、大統領が国内産業界を統制できる権限)を適用すると主張した。そして彼はそれを使って、バッテリー、自動車や自然エネルギーの貯蔵に使われる、リチウムや黒鉛、グラファイト、ニッケルなど、重要な材料のサプライチェーンを確保しようとしていたのだ。また、暖房用のヒートポンプ、天然ガスに代わる電気暖房機、その他の技術分野の生産を増やすために行うとも述べている。そして、国家安全保障の問題として捉えるということは、国家補助に関する他の法律や、環境に関するいくつかの法律が、これらの新しいエネルギーソリューションの導入を遅らせることを許されなくなることを意味し、これは非常に劇的な変化である。

ドイツとEUの戦略

同様に、自然エネルギーの拡大に先駆的な役割を果たしてきたドイツは、当初は「発電は国内の褐炭を増やし、自然エネルギーによる発電にこだわるのはあきらめる、原発の廃炉もあきらめる」と言い出すのではないかと思った人もいたようだ。しかしドイツの反応はその逆で、すでに推進してきたことを加速させるのみだ。風力や太陽光の開発導入を加速させ、もはや国家安全保障と同等であるという前提でそれを実施するつもりだ。これは単なる気候政策ではない。「優先すべき公共の利益に関わる問題であり、公共の安全保障に貢献するもの」である、というこうした声明が、これまで停滞気味だった規制手続きに影響を与える可能性があり、ドイツでがどのように変化するか、非常に興味深い。

図10:ドイツのエネルギー戦略

欧州連合も、ロシアの天然ガス依存脱却のために「REpowerEU」という計画を立ち上げている。東京都と同様に屋根に太陽光発電の設置を義務化し、自然エネルギーの導入を迅速化し12カ月以内認可しなければならないと言うものだ。日本での認可プロセスは手間と時間がかかるが、ヨーロッパでも必ずしも迅速に行われるとは限らず、許認可のために1年以上かかるケースもある(そのために、こうした導入プロセスの迅速化が重要なのだ)。

短期的にはガス供給の多様化を目指す。中東やカタールのLNGの確保においては日本との競合となり、産業の脱炭素化、例えば鉄鋼業の脱炭素化を進め、廃棄物系バイオマスからのバイオガス発電、自然エネルギー由来の国内水素製造の開始などが考えられる。こうした取組みは、蓄電池よりも長い時間の尺度で電力を安定化させる方法でもあるため、非常に。重要だ。

日本とEUの共通利益

数日前、IEAは、世界は今大きく加速しなければならず、「エネルギー効率化に向けた行動変容のターボチャージ」を行う必要があると提唱した。ターボチャージとは、省エネを迅速に行うよう圧力をかけることで、LNGの需要を減らし、価格を下げることができる。LNGの使用量を減らすといっても、LNGの需要をすべてなくすことはできない。しかし、LNGの需要を減らすことで、輸入しなければならないLNGの単位あたりの価格を下げることができる。EUにとっても、日本にとっても共通の利益がある。つまり燃料価格が高いということは、エネルギー効率の改善を早急に進めなければならないということだ。

また、自然エネルギーの導入拡大を速めなければならない。今利益が出るようになっていてる。この機会を利用することで、化石燃料の価格がこれ以上高騰するのを回避することが可能になる。

日本とEUが協力することが望ましい。技術やシステム開発において双方の経験やスキルを活用し、化石燃料の需要を減らして価格を抑えるという共通の目標に到達するために、互いに助け合うことができるよい機会だ。興味深いのは、EUの従来の計画と日本の計画どうであったかの比較だ。数週間前にエンバーが発表した図を見ると、明らかな違いが見てとれる。日本は依然として原子力の割合を増やし、自然エネルギーの利用を一定程度に増やすという考えを持っているのに対し、ヨーロッパでは重点が少し異なっていることがわかる。ヨーロッパでは、低コストの自然エネルギーに重点を置いており、すでに高い目標から倍にすることを目指しており、原子力の電力におけるシェアは下げるという計画だ。これはもはや政治的な問題ではなく、経済・採算性の問題なのだ。新規の自然エネルギーのコストは、継続して、既存の原子力発電所を継稼働させるのと同じレベルなのだ。ヨーロッパで新規にプラントを建設する場合は、あまりにもコストが高く時間がかかり過ぎるので、化石燃料への依存度を減らすという目標には間に合わない。

図11:EUと日本の共通利益

エンバーは結びに「日本にはもっと野心的に国産のクリーンエネルギーが必要で、太陽光や風力にもっと意欲的に取り組むべきだ」ともっともな言葉を並べている。私も同感だ。エネルギー業界は今、劇的な時代を迎えている。価格はかつてないほど高く、化石燃料を輸入している地域に住む私たちの関心は、価格を下げるために需要を減らし、急激な価格上昇を乗り切れる経済にすることだ。

本イベントに参加された皆さんが、今回のエネルギー危機が始まる前にすでに開始していた自然エネルギー拡大に向けた発展の加速に貢献することを期待する。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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