政府のエネルギー基本計画案に関する自然エネルギー財団コメント脱炭素の失敗、高コスト化で日本の競争力を損なう危うい選択エネルギー効率改善と自然エネルギー最大化の道をめざせ

2024年12月20日

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■ 主なポイント
  1. 政府のエネルギー基本計画案は、脱炭素化に最も効果のある自然エネルギー発電を2040年でも4~5割に留めている。これは既に現在、欧州が実現している水準であり、政府案では日本が15年遅れになる。とりわけ、風力発電は電源構成の4~8%しか供給しない計画となっており、これでは世界の風力発電産業を日本に呼び込むことが困難になる。エネルギー効率改善も不徹底であり、最終エネルギー消費の削減を1割程度しか見込んでいない。
  2. このため、基本計画案は、2013年比73%減という政府が提案したGHG削減目標案を達成するため、発電の2割を原子力に依存するとともに、残り3~4割の火力発電からはCO2排出をほぼゼロとする必要が生じるものになっている。
  3. 原子力発電で電力の2割を供給するためには、認可を受けた柏崎刈羽などの3基、未だ審査中の浜岡、泊など7基の原子炉が再稼働しても不十分である。2040年までに4基が運転期間60年を超えること、建設に20年を要する原子炉の新設は間に合わないことを含め、原子力発電による2割の電力供給の実現は極めて困難である。
  4. 火力発電のCO2排出をゼロにするためには、政府が「高効率」と称するものも含め石炭火力の完全なフェーズアウトが必要だが、基本計画案は「非効率石炭火力のフェードアウト」としか記載していない。火力発電脱炭素化に必要とする水素・アンモニア専焼、CCS付火力発電は実用化されてない。
  5. 国の発電コスト検証ワーキングの推計でも、脱炭素火力の1kWh発電コストは、水素専焼が29.9円、アンモニア専焼が23.1円、CCS付石炭火力も27.6円となっている。このような高コストの発電に電力供給の3~4割を依存すれば、電力料金が高騰することになる。
  6. 基本計画案は電力の2割を原子力発電に、3~4割を脱炭素火力に依存するという実現困難な方向をめざすものであり、日本の脱炭素化を損なう可能性が高い。また、電力料金などエネルギーコストの高騰で日本経済の競争力を弱めるリスクも内包している。
  7. 自然エネルギー財団が公表したシナリオは、日本には2040年に電力の90%以上を自然エネルギーで供給できる十分なポテンシャルがあり、電力の安定供給と価格の安定を実現できることを示している。先進国の役割を果たすことのできるGHG排出削減を可能にし、日本経済の競争性を高めるためには、エネルギー効率改善と自然エネルギーの最大化を脱炭素化の基本戦略とすべきである。

本文

 12月17日に開催された基本政策分科会において、経済産業省は第7次エネルギー基本計画の原案(以下、「基本計画案」とする)を示した。前日の16日には、並行して行われてきた電源ごとの発電コスト推計の結果も発表された。

 基本計画案は2040年に2013年比でGHGを73%削減するとする政府のNDC案を前提とし、エネルギー需給の見通しを示している。2013年比73%削減は2019年比にすれば69%削減となる。これはIPCCが1.5℃目標実現に必要な経路として提起した世界全体の削減率の範囲(58~90%)の中央値であり、先進国である日本が掲げるべき目標としては十分ではない。しかし、基本計画案が示したエネルギー需給見通しは、この73%削減の実現すらおぼつかない内容である。

エネルギー効率化の徹底と自然エネルギー最大化に背を向ける

 COP28が2030年までに自然エネルギー設備容量の3倍化と、エネルギー効率の改善率の2倍化を世界の目標として定めたのは、この2つが脱炭素化に向けて最も現実的でコスト的にも有利な手段だからである。基本計画案の最大の問題点は、この二つの方策を中核に据えていないことだ。

 2040年の最終エネルギー消費量は2023年比で10%程度の削減しか見込んでいない。一方、電源構成では自然エネルギーによる供給を4~5割程度にとどめている。基本計画案自体が述べているように、欧州では2024年上半期の発電量の半分を自然エネルギーが供給している。この政府案は、今から15年後にようやく現在の欧州の水準にたどり着くことを目指していることになる。

 特に問題なのは、太陽光発電とともに電力供給の中心になるべき風力発電の発電割合を全体の4~8%しか見込んでいないことである。政府は浮体式もふくめた洋上風力発電の推進をうたっているが、このような低レベルの目標では、世界の風力発電産業と投資を日本市場に呼び込むことが困難になってしまう。

原子力発電による2割の電力供給は極めて困難

 基本計画案は2040年に原子力発電によって電力の2割を供給する目標とした。しかし、これを実現するためには、これまでに再稼働した原子炉に加え、再稼働認可を受けた柏崎刈羽などの3基、未だ審査中の浜岡、泊など7基の原子炉が再稼働しても不十分である。しかも2040年までには、これまでに再稼働認可を受けた4つの原子炉の運転期間が60年を超えることになる。経済産業省自身が新設には20年のリードタイムとしており、今後、新設の対象としている「革新的軽水炉」の技術開発が未だ完了してないこともあわせ、2040年時点での新設原子炉の稼働を見込むことは現実的ではない。原発による発電量2割の目標は実現が極めて困難である。

石炭火力を含めた化石燃料発電への依存を続ける

 今回の基本計画案は、2040年時点でも火力発電で電力の3~4割を供給するとしている。最終エネルギー消費の削減を小幅にし、自然エネルギー電源を4~5割にとどめたため、原子力発電が2割を供給できたとしても、GHG73%達成のためには、3~4割を供給するとする火力発電はほぼ100%脱炭素しなければならない。

 だが、基本計画案は火力発電の脱炭素化について、まったくあいまいな記述しかしていない。早期のフェーズアウトが先進国の合意になっている石炭火力については、「非効率な石炭火力のフェードアウト」を進めると述べるだけで、政府がいう「高効率な」石炭火力の扱いには全く口を閉ざしている。高効率とする石炭火力も、そのCO2排出量は「非効率」なものと大差なく、天然ガス火力の2倍以上である。

 政府や一部の電力会社が力を入れている石炭アンモニア混焼発電では、50%をアンモニアにしても排出削減は30%に留まる。完全脱炭素化に必要なアンモニア専焼の技術は確立されていない。またCCS付きの火力発電は、発電所での回収だけでなくCO2の運搬や貯蔵過程も含めて、脱炭素化を確実に達成できる技術にはなっていない。 

 技術的に確立されていない脱炭素化火力発電に3~4割もの電力供給を見込むのは、日本の脱炭素化を失敗させる大きなリスクと言わざるを得ない。

エネルギーコストの高騰で日本経済の競争力を損なうリスク

 脱炭素化目標を達成できないリスクに加え、基本計画案が有するもうひとつの大きなリスクは、エネルギーコストを高騰させ、日本経済の競争力を損なう、という問題である。

 火力発電の脱炭素化に必要なアンモニアや水素、CCSの利用は政府の発電コスト検証によっても、きわめて高コストになることが指摘されている。1kWhあたりの発電コスト(LCOE)は、水素専焼火力では29.9円、アンモニア専焼では23.1円となっている。CCS付石炭火力も27.6円と推計されている。

 国際エネルギー機関の直近の見通しでは、世界の多くの地域で自然エネルギーコストの低下が続いていく。2040年時点の太陽光発電コストは1kWhあたりで、米国と欧州では3.5セント、中国では3セント、インドでは2.5セントになるとしている。陸上風力発電も3.5~5.5セントの範囲である。日本だけが高コストの脱炭素火力発電を大規模に使い続けることになれば、日本経済は競争力低下のリスクに直面することになる。

脱炭素化で先進国の役割を果たし、経済競争力の高めるエネルギー戦略への転換を

 経済産業省は、エネルギー基本計画改定を議論する基本政策分科会の初回に、「脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右すると言っても過言ではない」という認識を示し、自動車、半導体製造装置などの輸出で稼いだ29兆円のうち、26兆円が化石燃料の輸入で失われているという資料を示した。

 今回、政府が示した基本政策案は、原子力発電と脱炭素火力という実現が不確実で、高コスト化する技術に固執するものであり、自ら提起した脱炭素エネルギーの安定的な供給、海外からの化石燃料依存の解消という課題に応えるものになっていない。

 脱炭素化で先進国に求められる役割をしっかりと果たし、同時に経済競争力を高めていくためには、エネルギー効率化と自然エネルギー最大化をエネルギー戦略の中核に据える必要がある。自然エネルギー財団は公表した最新のシナリオの中で、日本には2040年に電力の90%以上を自然エネルギーで供給できる十分なポテンシャルがあり、大量の変動型電源を使っても電力の安定供給を実現できることを示した。電力価格も安定的な水準とすることが可能だ。

 エネルギー効率改善と自然エネルギー最大化を実現する戦略の策定と、それを実現する具体的な施策、制度改革を進めることを強く求める。

<関連リンク> 
[特設ページ] エネルギー基本計画の論点

外部リンク

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  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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