イスラエルとアメリカによるイランの原子力施設および核科学者への複数の攻撃は、原子力技術が本質的に軍事起源であることを再び浮き彫りにした。原子力施設が軍事衝突のなかで攻撃対象になるのは、今回が初めてのことではなく、また最後でもない。
- 1981年 イスラエルによるイラク・オシラク原子炉への爆撃・破壊
- 1991年 セルビアによるスロベニア・クルシュコ原発への攻撃示唆と、軍用機による攻撃訓練の実施
- 2007年 イスラエルによるシリアの原子炉の破壊
- ロシアによるウクライナ侵攻では、ザポリージャ原子力発電所およびチェルノブイリ原子力発電所で戦闘が発生。ザポリージャ原発では外部電力の供給が断たれ、放射性物質の放出リスクが生じた。1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子炉の残骸を覆う「石棺」がドローンにより損傷を受けている
これらの事例は、「戦争中でも原子炉は攻撃の対象にならない」という考えが通用しないことを示している。
原子炉やその他の放射性物質を含有する施設への攻撃には、二つの動機がある:
一つは、核兵器の開発能力的に持たせないために、関連施設を破壊し、放射性物質を拡散させ、専門家を殺害すること。二つには、敵国の領土に放射性物質による汚染を引き起こし、長期的かつ高額な損害を与えるためである。
今回のイスラエルによるイランへの攻撃については、イスラエル政府は前者の理由を主張している。すなわち、イスラエルに対する核兵器の使用を防ぐために、イランの核開発を阻止する、というものだ。
二つ目の動機は、より深刻な結果をもたらす。原子炉の破壊による長期的な被害は、核兵器による攻撃と比較しても甚大になり得る。1982年に学術誌『Ambio』が核戦争の影響に関する特集を掲載した際、破壊された原子炉による放射線被害は、核兵器そのものによる被害よりも長期的に深刻である可能性があるとして注目された。
東京電力福島第一原子力発電所で炉心溶融事故が起きた際、日本は天候と風向きに救われ、多くの放射性物質が海上へと流れ出た。しかし、もし原子炉の破壊が最大限の被害を狙った攻撃として行われる場合、風が都市部や重要な農業地帯に向かって吹くタイミングを狙って実行される可能性がある。
原子炉は、兵器による直接攻撃で破壊されることもあるが、それ以外にも、外部からの電力や冷却水の供給を断つことで深刻な事故を引き起こすことが可能だ。たとえ原子炉が運転を停止していたとしても、数週間は冷却を継続する必要があるからだ。
そして、放射性物質の拡散と汚染は、再処理施設や核廃棄物貯蔵所からも起こりえる。
原子炉や再処理施設は、しばしば核兵器開発の重要な一部としてみなされる。こうした施設への攻撃は、表向きは核兵器開発を阻止するためと主張されることが多いが、攻撃を実行することで深刻な放射能汚染をもたらす危険性がある。
戦時下における原子力発電所からの電力供給は不確実である。原子炉が損傷した際に放射性物質が放出されるリスクを回避するため、原発は事前に停止される可能性があるからだ。原子力発電は、大容量の送電線を通じて電力を供給する集中型発電施設であるため、攻撃の標的になりやすく、魅力的なターゲットでもある。送電線は、航空機やドローン、破壊工作によって容易に損傷を受ける。発電所や送電網が一度でも攻撃されれば、広範囲にわたる停電を引き起こすおそれがあり、これが戦時下における原子力発電が、極めてリスクの高い資産となるゆえんである。
これに対して、太陽光パネルや風力発電所に依存し、地域内で電力バランスをとる分散型電力システムは、より強靱であり、全体を完全に機能停止させることは困難である。
総じて、原子力は、特に紛争時には、極めて脆弱であり、軍事的な脅威にさらされやすいものなのである。




