国際エネルギー機関(IEA)などが2024年の電力セクターの速報値を発表した。顕著な傾向は、世界全体で太陽光発電が進展していることである。発電電力量、新規導入量、コスト競争力のいずれにおいても、圧倒的な成長を見せている。その背景には、蓄電池の急激な拡大がある。蓄電池の累積導入量は、従来の電力の貯蔵手段である揚水発電の規模を2024年に上回った。
太陽光の発電電力量は全世界で30%増加
IEAによると、2024年の全世界の発電電力量は2023年から4%増えて、1,207TWh(テラワット時=10億キロワット時)に達した。運輸セクターと産業セクターにおける電化の進展、空調の増加、データセンターの拡大が主な要因である。
その中で太陽光の発電電力量は前年比30%の増加で、過去最高の475TWhを記録した。すべての電源の中で最大の増加量である(図1)。
図1:電源別に見た全世界の発電電力量の増加(2024年)

化石燃料などには、石炭、ガス、石油、自然エネルギー由来ではない廃棄物、種別不明を含む。
出典:国際エネルギー機関、 Electricity 2025 (2025年2月)
太陽光発電の増加量は、水力や風力など他の自然エネルギーによる増加量の合計を上回った。中国で降水量が増えて水力発電が大幅に回復したにもかかわらずだ。化石燃料による火力発電の増加量と比べると2倍以上になった。原子力発電はフランスで原子炉の運転停止が少なくて済んだが、それでも太陽光発電と比べて約5倍の差がついた。
新規の導入量の72%が太陽光発電
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光発電の導入量は2024年にAC(交流)ベースで452GW(ギガワット=100万キロワット)も増加した(図2)。すべての電源を合わせた新規導入量のうち72%を占めた。陸上風力など他の発電方法の合計に対して2.5倍の規模である。太陽光発電が急速なペースで拡大していることを示している。
図2:電源別に見た全世界の導入量の増加(2024年)

その他の自然エネルギーには、洋上風力、バイオ、地熱、集光型太陽光発電、海洋を含む。
出典:国際再生可能エネルギー機関、Renewable Capacity Statistics 2025 (2025年3月)
国別に見ると、中国が278GWの太陽光発電を新規に導入した(図3)。次いで米国の38.3GW、インドの24.5GWである。ブラジルとドイツも15GWを超えている。これに対して日本は2.5GWにとどまり、固定価格買取制度を開始した2012年以降で最低の水準である(調査機関のBloombergNEFとRTSによると3.5~4GW程度の導入量だが、IRENAの統計と差が生じた理由は不明)1 2。日本の導入量は上位10カ国にも入らない。
図3:国別に見た2024年の太陽光発電の新規導入量

太陽光発電のコストは36米ドル/MWhで最も安価
BloombergNEFによると、2024年に世界全体で新設した太陽光発電のコストは過去最低の36米ドル/MWh(メガワット時=1000キロワット時)になった。日本円に換算すると(1米ドル=140円で換算)、約5円/kWh(キロワット時)である。製造面の改善が進んだことと、供給が過剰だったことなどが要因だ。
技術面でも、商用の太陽電池モジュールの発電効率が2023年の22.3%から2024年に22.7%へ、0.4ポイント改善した3。過去10年間で、太陽電池モジュールの発電効率は6ポイント上昇している。
このような進展によって、太陽光発電は陸上風力発電を抜いて、全世界で最もコスト競争力のある発電技術になった(図4)。排出削減対策を施していない石炭火力発電やガスコンバインドサイクル発電と比べて約半分、CCS(二酸化炭素回収・貯留)を伴う火力発電の4分の1程度の水準である。さらに大規模な原子力発電の7分の1、原子力のうち小型モジュラー炉と比べると12分の1の低さである。
図4:電源別に見た全世界の発電コスト(新設、2024年)

日本でも太陽光発電のコスト競争力には目ざましいものがある。蓄電池を伴わない新設の太陽光発電のコストは、既設の石炭火力発電と同等になった(図5)。蓄電池を併設した場合には、既設のガスコンバインドサイクル発電と同程度になる。しかしこのような進展が広く認識されていないため、残念ながら一般社会のエネルギーに関する議論や、自然エネルギーに対する意欲的な政策の立案を妨げている。
図5:日本における電源別の発電コスト(2024年)

出典:BloombergNEF, Levelized Cost of Electricity 2025 (2025年2月) [要購読]
蓄電池のコストは2024年に33%低下
BloombergNEFは全世界のエネルギー貯蔵容量を2024年11月に予測した。蓄電池の容量は2024年に69GWも増加して、累積で159GWに達する(図6)。従来は揚水発電が出力ベースで主要な貯蔵手段だったが、それを一気に上回る見込みだ。
図6:全世界における蓄電池と揚水発電の累積導入量

揚水はInternational Renewable Energy Agency, Renewable Capacity Statistics 2025 (2025年3月)
蓄電池の導入拡大は、自然エネルギーの電力を送配電網に組み入れるうえで重要な進展である。特に太陽光の発電パターンは蓄電池と組み合わせると理想的で、電力の安定供給をもたらす効果が期待できる。
中国は蓄電池の新規導入量においても世界をリードしている。2024年に36.1GWを追加したと予測されている(図7)。米国が12.9GWで第2位、ドイツが4.4GWで第3位、さらにイタリアとオーストラリアが2GW弱で続く。日本は0.9GWで第7位である。
図7:蓄電池の新規導入量の上位10カ国(2024年)

蓄電池の導入量が飛躍的に拡大した要因は、太陽光発電と同様に、製造面の改善と供給量の過剰によって、コストが劇的に低下したことである。この2つの技術は規模の経済効果を発揮できるため、大量生産に適している。
ユーティリティ・スケールの大規模な蓄電池(持続時間:4時間)の典型的なモデルでは、LCOE(均等化発電原価)が2023年の155米ドル/MWhから2024年に104米ドル/MWhへ、33%も低下した(図8)。過去10年間で、蓄電池のLCOEは7分の1以下になっている。
図8:大規模な蓄電池(持続時間:4時間)のLCOEの低下

世界全体が太陽光発電の時代に入ったと言える。安価な脱炭素の電力が、経済的で持続可能な未来をもたらす。さらに蓄電池の拡大によって、太陽光発電の出力変動を予測しながら電力を調整できるようになる。このような進展は保守的なエネルギー政策の再構築を促す。日本には全国各地の建物の屋根や農地に太陽光発電を導入できる膨大なポテンシャルがあり、電力の脱炭素化に向けて絶好の機会が広がっている。
- 1BloombergNEF, Global PV Market Outlook 2025 Q1 (2025年2月) [要購読].
- 2RTS Corporation, The annual global PV installed capacity in 2024 is expected to reach the 500 GW level, and Japan needs to make a turnaround for increasing its PV installed capacity – 2025年1月24日 (2025年4月11日アクセス).
- 3BloombergNEF, The More Solar Panels Change, the More They Stay the Same (2025年3月) [要購読].