年頭コラム国を誤るエネルギー政策に終止符を

大野 輝之 自然エネルギー財団 常務理事

2023年1月1日

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 2022年、ロシアのウクライナ侵略が国際的なエネルギー危機を引き起こしたことに対し、欧州、米国、中国、インドなどの国々は、国産資源である自然エネルギーの開発を加速する戦略を採用しました。これに対し日本では、岸田政権が危機への対応と称して、最も力を入れているのは、昨年末に策定した「GX基本方針」に見られるように原子力発電復権の目論見です。自然エネルギー財団が公表したコメント「GX基本方針は二つの危機への日本の対応を誤る」(2022年12月27日)で指摘したように、原子力発電は発電コストの高さ、建設期間の長さだけをとっても、直面するエネルギー危機、そして気候危機への対応策になるものではありません。

 東日本大震災前から続く、日本のエネルギー政策の最大の問題点の一つは、一貫して自然エネルギーの重要性を理解せず、拡大を怠ってきたということです。現在の日本の自然エネルギー電源割合は20%にとどまっていますが、日本と同じ先進工業国のドイツ、日本と同じ島国の英国では40%を超えています。この差は、日本と独英の自然条件の違いによるものではありません。20年前、2000年の時点では豊かな水資源に恵まれた日本は水力発電で電力の10%を供給していました。これに対し、ドイツの自然エネルギー割合は6.9%、英国は3.4%に過ぎなかったのです。この20年余にドイツも英国も、自然エネルギーの割合を40ポイントも増やしたのです。日本は震災後にFITを導入し拡大が始まりましたが、10ポイントしか増えていません。

 経済産業省などが審議会で示す資料は、日本には自然エネルギー拡大への地理的な条件がない、など立ち遅れの説明が書かれていますが、政策の誤りを覆い隠すための言い訳でしかありません。EUや米国の州政府・都市自治体が導入しつつある建築物への太陽光発電設置義務を、なぜ日本政府は導入しようとしないのでしょうか。洋上風力発電についても、国の政策は欧米、中国、台湾などよりスタートが遅れ、そのめざす目標はあまりに低いものです。英国の2030年目標は50GWで、日本の案件形成10GWの5倍です。日本の電力規模は英国の3倍ですから、日本では150GWに相当します。英国の海は遠浅で日本と違う、という弁明が聞こえて来そうですが、日本でも着床式が可能なエリアは少なからず存在しており、洋上風力への取組が遅れた理由になりません。むしろ豊かな可能性のある浮体式洋上風力開発で世界をリードできるよう、いち早く高い目標を示すべきです。

 岸田政権には、日本の自然エネルギー開発の立ち遅れが、この国のエネルギー安定供給にとって、また日本企業の国際市場での競争力確保にとって、いかに深刻な事態であるかが理解できていないのだと思います。欧州各国の2030年目標を見ると、ポルトガル、オーストリア、デンマークが100%、オランダ、ドイツ、スペイン、スウェーデン、イタリア、アイルランド、ギリシャが70%以上という高い目標を掲げています。米国は公式の目標を決定していませんが、エネルギー省は2035年に自然エネルギーが81%になるという報告書を公表しています。

 いまの政策のままでは、国の2030年目標が達成されたとしても、その時点では日本の電力は多くを化石燃料に依存し続け、エネルギーコストの高騰に苦しみ、CO2排出の高い電気を使い続けることになります。日本で生産される製品は欧米の製品に比して、環境性能の低いものという評価を受けることになってしまいます。GX基本方針は、気候変動対策としてだけではなく、経済政策・成長戦略としても誤った政策を提起したものです。

 2023年、自然エネルギー財団は、追加性のある自然エネルギー開発をコーポレートPPAによって推進する企業、先駆的な制度の導入を進める地方自治体、地域と共生する自然エネルギー開発を進める全国の地域電力など、多くの皆さんとの協力により、一日も早く日本の未来を誤る国のエネルギー政策を転換させるよう取組んでいきます。

 本年も自然エネルギー財団の活動にご注目、ご支援をいただけるようお願いいたします。
 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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