ウクライナ危機で建築部門のエネルギー効率化対策を強化するドイツ貧困層を含む市民のエネルギー価格負担軽減策にも着手

一柳 絵美 自然エネルギー財団 研究員

2022年4月13日

 ドイツは、3月24日、ウクライナ危機によるエネルギー価格上昇に対処するための連邦政府の施策一式を発表した1。その中で、エネルギー消費を減らし、エネルギー効率を高めるため、特に建築部門の対策強化を具体化している。たとえば、年内の「建築物エネルギー法(GEG)」改正で、2023年1月以降は、新築の建築物に対して、後述する「効率化基準55」の義務付けを目指す。また、2024年1月以降に新設の全ての暖房設備は、可能な限り、暖房需要の65%を自然エネルギーで賄うことを法規定する。加えて、古いガス暖房設備をヒートポンプに交換促進するための支援を行う。

2023年に新築建築物の効率化基準55を義務付け、2024年自然エネ65%で新設暖房を運用

 ドイツは、2020年施行の「建築物エネルギー法(GEG)」で、建築物での省エネや自然エネルギー利用を法規定している2。現行のGEGは、新築建築物の年間一次エネルギー需要要件として、参照建築物水準の75%を超えてはいけないとしている(15条)3。新築建築物での自然エネルギー電力利用は、冷暖房エネルギー需要の少なくとも15%を賄う必要がある(36条)。

 それが、今回の発表では、新たな目標として、新築建築物に対して2023年1月に「効率化基準55」の義務づけをするとしている。「効率化基準55」は、参照建築物水準と比較して、必要な一次エネルギー需要が55%で済むことを意味し、現行のGEG規定(最大75%)から20%効率化されると理解できそうだ。この効率化基準は、数値が低いほどエネルギー需要が少ない効率的な建築物を意味する4。昨年11月公表の現政権の連立協定では、新築建築物に関して、2025年1月に「効率化基準40」に合わせるとあり、明確な義務化ではなかった5。また、新設暖房設備の自然エネルギー65%運用時期は、連立協定では2025年1月であった。それが、今回の措置では、2024年1月以降と1年前倒しされ、「可能な限り」という文言が追加されている。

 他にも、不動産所有者が20年以上経過した古い暖房器具を交換する枠組みを作る。そのために、ドイツの「効率的な建築物のための連邦資金(BEG)」の枠内で、ガスボイラー交換プログラムを最適化し、大規模なヒートポンプ促進キャンペーンを展開する。建築物の改修に関しては、EUの要件に沿って、特に効率の悪い建築物から優先的に改修する。

「効率的な建築物のための連邦資金(BEG)」による建築物改修・新築への追加資金提供

 建築物のエネルギー効率化が気候中立の鍵であるドイツでは、建築物の改修・新築のための公的な補助金が用意されている。ドイツは、これまでも「効率的な建築物のための連邦資金(BEG)」で、建築物のエネルギー効率化や自然エネルギー利用促進のための金銭支援を行ってきた。BEGによる支援は、今年の1月24日に申請受付を一時停止していたが、2月22日に既存改修への申請受付を再開し、4月20日に新築に対する申請受付も再開見込みである6

 連邦議会の予算委員会は、3月、エネルギー効率の高い建築物改修を促進する支援に、追加資金として47億6,000万ユーロ(約6,400億円)を充て、そのうちの10億2,000万ユーロ(約1,370億円)を2023年の予算と承認した7。これは、2月に再開したばかりの建築物改修支援の申請に対する需要が非常に大きく、追加予算の資金提供が必要となったためである8。新築のエネルギー効率的な建築物に対しては、4月5日に、連邦経済・気候保護省が新たに3段階の支援実施を発表したばかりだ。予算は、4月20日から今年末までに10億ユーロ(約1,350億円)である。第1段階では、「効率的な住宅40」の新築支援を行う。第2段階では、今年の予算終了後、支援条件が厳格化され、「持続可能な建築認証」との組み合わせが必須化される。2023年以降の第3段階では、「気候にやさしい建築」と題した新たなプログラム導入を計画中で、「持続可能な建築認証」をさらに発展させて、建築のライフサイクルにおける温室効果ガス排出により焦点を当てる予定である9

ロシアからのエネルギー輸入依存脱却:ガス2024年夏、石炭2022年秋、石油2022年内を目指す

 また、ドイツ連邦経済・気候保護省は、3月25日にエネルギー安全保障に関する進捗報告を公表し、ロシアからの迅速なエネルギー輸入依存脱却に向けた見通しを示している10。ロシアからのガス供給依存率は、過去に平均55%で、今年第一四半期末は40%まで下がった。今後、複数の浮体式LNG基地稼働で調達先を多様化する他、企業や一般家庭のエネルギー効率化、省エネ、電化などによって今年末までにガス依存率を約30%まで削減する。2024年夏までにロシアからのガス依存脱却ほぼ達成を目指す。ロシアからの石炭は、これまでドイツの石炭消費量の約50%を占めていたが、供給契約の変更で依存率を25%まで低下させ、今年の秋までには依存脱却できる見込みだという。昨年のロシア輸入依存率が約35%だった石油についても、他国の石油と置き換える契約変更で25%まで依存率低下、年内のほぼ自立を目指す。

低所得者層向けの暖房費補助、中間層向けの救済パッケージ、交通費負担軽減策を展開

 ドイツは、ウクライナ危機を受けて、市民のエネルギー価格負担軽減策を講じる。ここで、背景情報として、ドイツ家庭部門のエネルギー消費の動向を整理したい。ドイツでは、一般家庭の最終エネルギー消費の約7割が室内暖房に由来する11。2021年のドイツの住宅における暖房エネルギー源の内訳は、ガスがおよそ半分の49.5%、暖房用オイル24.8%、地域熱供給14.1%、その他6.2%と続く。電気式ヒートポンプは2.8%で、電気暖房は2.6%と僅かである12。つまり、多くのドイツ市民にとって、ガス暖房が主要なエネルギー源である。

 3月18日には、ドイツ連邦政府が、低所得者層向けの暖房費補助の支給を発表した13。およそ210万人が対象となる。公的な住宅扶助受給者には、1人世帯に270ユーロ(約36,000円)、2人世帯に350ユーロ(約47,000円)、以下世帯人数1名追加ごとに70ユーロ(約9,500円)の暖房費補助が支給される。若年層に対しては、ドイツ連邦奨学金(BAföG)受給の学生や、職業訓練支援金受給の職業訓練生らに、一律230ユーロ(約31,000円)が支給される。 

 加えて、前述の3月24日公表の連邦政府の施策一式では、中間層向けの救済パッケージの内容も明らかにされた。所得税が課税される全ての被雇用者には、給与に上乗せする形で、エネルギー価格手当として一律300ユーロ(約40,000円)が1回支給される。また、家族手当として、子供一人あたり100ユーロ(約13,000円)の一時金を支給する。社会保障給付者向けに予定していた一時金100ユーロは、一人あたり更に100ユーロ(約13,000円)を増額する。また、燃料にかかるエネルギー税を3ヶ月間減額する。そして、月額9ユーロ(約1,200円)で近距離公共交通機関を90日間利用できるようにする。

再エネ賦課金は2022年7月に廃止、電気料金の負担軽減へ

 このような各種の支援策に加えて、ドイツ連邦政府は、2022年7月1日以降の再エネ賦課金の廃止を発表している14。連立協定では、廃止時期を2023年1月としていたが、ウクライナ危機に起因するエネルギー価格上昇を受けて、半年前倒しとなる。これまでドイツの再エネ賦課金は、日本と同様、電気料金の一部として徴収されてきた。今後は、排出量取引による収益等が元手のドイツ連邦特別基金「エネルギー・気候基金(EKF)」から財源が確保される。ドイツの再エネ賦課金は、2017年に6.88ユーロセント(約9.3円)/kWhでピークを迎え、今年2022年には、3.72ユーロセント(約5.0円)/kWhまで下がっていた15。今回の再エネ賦課金廃止による電気料金負担軽減効果は約66億ユーロ(約8,900億円)と見込まれる。例えば、4人世帯の場合では、2021年と比較して年間約300ユーロ(約4万円)の負担軽減となる。

結論

 ドイツでは、一般家庭の最終エネルギー消費の約7割が室内暖房であり、住宅における暖房エネルギー源の約半分がガスである。ロシアからのガス、石炭、石油の早急な輸入依存脱却を目指すには、特に、建築部門における対策が急務である。そのため、ドイツは建築物のエネルギー効率化や自然エネルギー運用基準を強化し、既存改修・新築支援に対する追加予算を発表している。今年中には、「建築物エネルギー法(GEG)」の改正などの法整備を行う。そして、再エネ賦課金の廃止に加えて、低所得者層向けの暖房費補助や、中間層向けの救済パッケージ等を展開している。このように、昨今のエネルギー危機での市民への負担を軽減すべく尽力しているところだ。

 

 

外部リンク

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  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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