ドイツの電力市場・電気料金に関する情報公開

一柳 絵美 自然エネルギー財団 特別研究員

2021年3月29日


 日本では、今冬、電力スポット市場価格の高騰に伴って、市場価格連動型の電力会社の電気料金が急激に上昇し、自然エネルギーを供給する新電力からも一時的に顧客離れが起きている。そこで、ふと疑問が浮かんだ。ドイツでもこのような事態は起きているのか?急激な卸電力価格変動が起きる場合、一般家庭への救済措置はあるのか?今回は、これらの疑問を基に調べてみた。

 まずは、ドイツの卸電力価格の推移からみてみよう。2020年の卸電力価格の平均値は30.47€/MWh、前年比で7€以上下がった。これは、燃料費の低下、コロナ禍による電力需要の急落、自然エネルギーによる発電量が過去最高を記録したことが原因という1。2020年のドイツの発電量に占める自然エネルギーの割合は、はじめて過半数を超え、50.5%となった。風力が27%で一番大きな電力源だ2。ドイツ連邦ネットワーク庁の電力市場情報サイトSMARD3では、卸電力価格の推移を、地域・期間・時間単位を選択し、当日分まで図表で表示させることができる。サイトの言語は、独・英語に対応しており、手話や、簡易な分かりやすい言葉もワンクリックで選ぶことができ、操作しやすい。試しに、12月末から3月末までの3か月間の卸電力価格推移の図を作成してみたところ、2月11日の79.3€/MWhが最大で、今冬に劇的な高騰はみられなかった。一方で、昨年12月27日にはマイナス13.45€/MWhのネガティブプライスが確認できた。

 では、このような価格変動に応じて一般家庭の電気料金は増減するのだろうか。ここで、連邦ネットワーク庁がQ&A形式で消費者向けにウェブ公開している電気料金に関する情報から、「料金保証(契約上の料金維持規定)」に関する項目を紹介したい4。「料金維持規定とは何ですか?」という欄には、料金維持規定によって、電力供給者は一定期間、契約書に定めた料金に縛られるとある。電力供給者は、料金維持の期間や、本規定対象の料金構成要素を限定することもできるそうだ。消費者向けの注意書きによると、この料金維持規定は、基本的に電気料金の構成要素の一部のみに適応される。本規定対象外の料金構成要素が変動した場合は、料金保証に関わらず、電気料金が変動する可能性があるらしい。そして、原則、料金保証は、電力供給者が影響を及ぼすことができる料金構成要素に限られるとある。たとえば、電力調達コストや販売費、利益といった構成要素がそれに該当する。電力供給者が影響を及ぼすことができない構成要素には、再エネ賦課金や託送料金などの公租公課関連が挙げられていた。以上の説明を理解した限り、卸電力価格は電力調達コストに含まれると推測できるので、料金保証の対象範囲内と考えられる。つまり、卸電力価格変動の場合でも、ドイツの消費者は、料金保証を提供する電気料金プランを契約していれば、一定期間、電気料金高騰から守られる可能性がある。電力供給者は、契約上の料金保証の範囲や期間を決められ、消費者は料金保証の内容を理解した上で、契約することになる。

 ところで、ドイツで電気料金の上昇や大幅な変動を避けながら、100%自然エネ電力の電力会社に乗り換えたい場合、何か手はあるだろうか。ドイツでは電力自由化以降、今年の2月までに、累計で48.5%の世帯が電力供給会社の乗り換えを経験しているという統計がある5。試しに、ドイツで電力会社を乗り換えるつもりで、ドイツの大手料金比較サイトverivoxを使って、電気料金比較をしてみた6。ベルリン在住の2人世帯で、年間電力使用量を2500kWhと仮定したところ、乗り換え前の年間電気料金は約12万円(930€)と算出された。100%自然エネルギー由来の電力を選ぶには、「持続可能なエコプラス」というオプションをクリックするだけで、19件がヒットした。試算の結果、これらの100%自然エネ電力料金プランの全てで、乗り換え前より電気料金節約効果が見込まれ、乗り換えボーナス金含まない場合でも、1年あたり日本円換算で5000~20000円(40~175€)程度電気料金が安くなると表示された。一方、自然エネ電力に限定せず、全電力会社を対象に乗り換え先を検索すると、電気料金が上がる例もあった。前述の料金保証に関しては、試算の際に、希望の料金保証期間を選んで、検索することができた。電力会社の料金プランごとに期間は異なるものの、だいたい1~2年間の期間、料金保証が提供されていた。電気料金体系は、自然エネの電力料金プランでも概ね、基本料金+1kWhあたりの消費電気料金という固定価格で表示されていた。今回の試算では、大手電気料金比較サイトの一つを使用したが、情報の中立性を確保するには、料金比較サイト間の比較もする価値がある。例えば、中立的な立場からドイツの商品・サービスを比較する試験を行う商品テスト財団は、電気料金比較サイトの比較結果を公開している7。なお、ドイツではコロナ禍対策として、日本の消費税に相当する付加価値税が2020年7月~12月まで、19%から16%に減額された。ドイツ連邦ネットワーク庁によると、この減税は電気料金にも反映される。

 さて、今回の調査では、ドイツの卸電力価格の動向や一般家庭の電気料金関連情報に関して、消費者に分かりやすい形で情報公開されていることが分かった。ドイツの消費者は料金保証によって、契約書に記載の一定期間は、電気料金変動から守られる安心感がありそうだ。また、民間の料金比較サイトでの試算では、料金保証の内容を事前に確認でき、電気料金は固定価格で表示される傾向にあり、100%自然エネ電力への切り換えによって電気料金の節約効果が見込まれた。日本への示唆として考えられるのは、電力市場や電気料金に関する透明で分かりやすい情報公開であろう。
 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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