先進企業の自然エネルギー利用計画(第20回)ヒューリック、2025年までに自然エネルギー100%へ非FIT太陽光発電所を自社で開発・利用

石田 雅也 自然エネルギー財団 シニアマネージャー(ビジネス連携)

2021年3月25日

 日本では大規模な太陽光発電所の建設・運転に固定価格買取制度(FIT)を適用するケースが圧倒的に多い。しかし最近は発電コストが低下してきたことから、FITを使わない“非FIT”の事例が増えてきた。不動産会社のヒューリックは国際イニシアティブの「RE100」に加盟して、2025年までにグループ全体で使用する電力を自然エネルギー100%に転換する目標を掲げている。年間の電力使用量は約6000万kWh(キロワット時)にのぼる。この電力すべてを自社で運営する非FITの太陽光発電所から供給する計画だ。

 その第1号になる太陽光発電所が、埼玉県の加須市で2020年10月に運転を開始した(写真1)。発電規模は1.3MW(メガワット)で、年間の発電量は約150万kWhを見込んでいる。発電した電力はグループ会社の小売電気事業者を通じて、東京都心にあるヒューリックの本社ビル(地上12階建て)に供給する。本社ビルの電力使用量は第1号の非FIT太陽光発電所の発電量とほぼ同じ規模であり、年間ベースで自然エネルギーの利用率が100%になった。

写真1.ヒューリックが運営する非FIT太陽光発電所の第1号(埼玉県加須市) 出典:ヒューリック

 さらに同程度の規模の非FIT太陽光発電所を千葉県の千葉市で運転開始したほか、福島県の2カ所で建設中である。今後も1MW級の太陽光発電所を年間に10件以上のペースで開発して、2025年までに発電規模を合計で53MWに拡大する。この計画によって、グループ全体で使用する約6000万kWhの電力を自然エネルギー100%で供給できる。すでに建設用地を含めて開発の見通しは立っている。大規模な事業の買収などによって想定以上に電力使用量が増えない限り、2025年の目標達成は確実な状況だ。

 追加性のある自然エネルギーの電力を低コストで増やす

 ヒューリックが自然エネルギーの電力を調達するために、非FIT太陽光発電所の自社開発を選択した理由は主に2つある。1つ目は気候変動の抑制と環境負荷の低減に向けて、追加性のある自然エネルギーを重視した。新たに自然エネルギーの発電所を追加することによって、既設の火力発電所や原子力発電所の電力を代替できて、二酸化炭素や放射性廃棄物の排出量を削減できる。すでに運転している自然エネルギーの発電所から電力を購入しても、国全体の排出量を削減することにはならない。欧米の先進企業は新設の発電所による追加性を重視して自然エネルギーの電力を選択している。ヒューリックも同じ方針で自然エネルギーの電力を開発・利用する。

 2つ目の理由はコストである。ヒューリックは発電事業者が開発した太陽光発電所を取得して管理・運営する方法をとっている。発電した電力はグループ内の小売電気事業者であるヒューリックプロパティソリューション(ヒューリックPS)に売却する(図1)。売電価格は1kWhあたり約13円で、2020年度のFITの買取価格(出力1MW以上の入札上限価格11.5~12円)を上回る。ヒューリックは投資に対して一定の利回りを確保できる。しかもFITのように買取価格を国民が負担することもない。

図1.自社で運営する発電所の電力をグループ内で調達・供給するスキーム 出典:ヒューリック
FIT:固定価格買取制度、HLC:ヒューリック株式会社

 ヒューリックPSは買い取った電力をヒューリックの本社ビルなどに約20円/kWhで販売している。ヒューリックが保有するビルは中規模で、使用する電力は高圧(契約電力2MW未満)である。高圧の電気料金の平均単価は20円/kWh程度であることから、自社開発の非FIT太陽光発電所の電力をヒューリックPSから約20円/kWhで購入しても電気料金は高くならない。一方で小売電気事業者のヒューリックPSにとっては、電力の調達コストのほかに送配電事業者に支払う託送料金などを加えても赤字にならない価格水準である。グループ全体で利益を出すことができる。今後は太陽光発電のコストがさらに低下する見込みで、経済的なメリットはますます高まる。

 自然エネルギー100%を達成するために、省エネにも力を入れて取り組んでいる。すでに100%の状態になっている本社ビルは、標準的なビルと比べて年間のエネルギー使用量が半分程度で済む。米国マサチューセッツ工科大学と共同で開発した自然採光システムや自然換気システムなどを導入して電力使用量を削減している。電力使用量が少なくなるほど、自然エネルギー100%の目標を達成しやすくなる。先進的な省エネ対策と自然エネルギー100%を同業他社に先行して実現することで、気候変動の抑制や環境負荷の低減という社会的な使命に加えて、これからますます増えてくる環境志向の高い企業をビルのテナントとして獲得する狙いがある。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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