先進企業の自然エネルギー利用計画(第19回)J. フロント リテイリング、300年続く百貨店を自然エネルギー100%にサステナブルな店舗へ顧客とテナントを誘導

石田雅也 自然エネルギー財団 シニアマネージャー(ビジネス連携)

2020年11月24日

 老舗百貨店の大丸と松坂屋に対して、若い人たちを対象にしたPARCO(パルコ)。同じ小売業でも顧客や事業形態の違う店舗を運営するJ.フロント リテイリング(JFR)が、「低炭素社会への貢献」を経営の最重要課題に掲げて、温室効果ガス排出量の削減に意欲的に取り組んでいる(図1)。
 
図1.温室効果ガス排出量の削減目標(グループ全体、スコープ1・2)


  2050年までに排出量をゼロに削減するために、国際イニシアティブの「RE100」に加盟して、グループ全体で使用する電力を自然エネルギー100%に切り替えていく。目標達成に向けて、現在は10%に満たない自然エネルギーの比率を2030年までに一気に60%まで高める計画である。

水力発電100%の電力を利用、コスト削減が最大の課題

 大阪を代表する繁華街として栄える心斎橋の中心部に、創業300年の歴史を誇る「大丸心斎橋店」がある。その本館を86年ぶりに建て替えて2019年9月にオープンした(写真1)。低炭素社会に向けたモデル店舗として、オープン当初から自然エネルギー100%の電力を使っている。さらに東京都内にある大丸松坂屋百貨店の本社ビルやパルコの店舗を含めて、合計5カ所のビルで自然エネルギーの電力を利用中である。
 

写真1.自然エネルギーの電力を100%使用する「大丸心斎橋店 本館」


 5カ所すべてで水力発電100%のメニューを購入している。大阪では関西電力の「再エネECO(エコ)プラン プレミアム」を契約した。大丸心斎橋店の本館に加えて、隣接する南館でも同じメニューの電力を100%使用する。東京の3カ所の電力は東京電力エナジーパートナーが販売する「アクアプレミアム」である。自然エネルギーの電力を使い始めるにあたって、安定した供給量がある点を評価した。従来から地域ごとに電力会社と包括契約を結んでいることも理由の1つである。

 ただし通常の電気料金に加えて1kWh(キロワット時)あたり1~4円のプレミアムが上乗せされている。省エネ対策を実施して電力使用量を削減しても、コストの低減効果は小さくなってしまう。JFRグループが年間に使用する電力量は3億kWhを超える。2030年までに全体の60%を自然エネルギーに切り替えるためには、購入価格の抑制が最大の課題になる。今後は太陽光や風力を中心に自然エネルギーのコスト低下が期待できることから、自然エネルギーの電力が全国各地で拡大して、事業者間の競争によって価格低下が進むことを見込んでいる。

顧客の不要品を回収、新素材やバイオエネルギーへリサイクル

 温室効果ガスの排出量を削減する手段として、百貨店の顧客を対象に商品のリサイクル・リユースにも取り組んでいる。2016年から「ECOFF(エコフ)」と名づけたプロジェクトを実施している(図2)。不要になった衣料などを店舗に持参した顧客には、買い物券を渡して次回の購入にあててもらう。2019年までの4年間で、合計200万点を超える商品が持ち込まれた。
 
図2.大丸松坂屋百貨店のリサイクル・リユース・プロジェクト「ECOFF(エコフ)」
 
 リユースできる商品は海外に送り、リユースできない衣料は新素材などにリサイクルする。綿からはバイオエタノールを生成して、工場の代替燃料として利用できる。顧客の協力を得ながらサーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進することで、社会全体の温室効果ガス削減に貢献する。さらに自然エネルギーの電力を利用する店舗を拡大しながら、環境意識の高い顧客を増やしていく。と同時に環境を重視した事業を展開する企業を店舗のテナントとして獲得できれば、収益の安定的な拡大につながる。

 低炭素社会に向けたモデル店舗の大丸心斎橋店では、営業用の車両70台をすべて電気自動車に切り替えた。ほぼ同じ時期に東京・渋谷で建て替えた「渋谷PARCO」には、ガスコージェネレーションシステムを導入して、電力と熱を効率よく供給する体制を整備した。オンラインショッピングの拡大などによって厳しい事業環境にある百貨店だが、エネルギー利用の転換と事業構造の転換に意欲的に取り組みながら、新たな成長を目指す。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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