東南アジアの国際送電網について

市村 将太 自然エネルギー財団 上級研究員

2020年10月27日


 ASEAN Power Grid(APG)という東南アジアの国際送電網構想がある。これは、2007年8月23日に、ASEANに加盟している10ヶ国(ブルネイ・カンボジア・インドネシア・ラオス・マレーシア・ミャンマー・フィリピン・シンガポール・タイ・ベトナム)が、覚書を締結したことに始まる電力網構想だ1。APGの現状について、2019年8月に出されたIEAの報告書「Establishing Multilateral Power Trade in ASEAN」2を中心に見ていくこととする。

 現在APGは、北・南・東の3つの地域に分けて検討が進められている。北地域はカンボジア・ラオス・ミャンマー・タイ・ベトナム、南地域はシンガポール・マレーシア(半島マレーシア部。あるいは西マレーシアとも呼ばれる)・インドネシア(スマトラ島部)、そして東地域はフィリピン・ブルネイ・マレーシア(ボルネオ島のサラワク州・サバ州部)・インドネシア(ボルネオ島、インドネシア語でカリマンタン島の西カリマンタン部)となっている。
 
図 ASEAN Power Grid (APG)の進捗
出典) IEA “Establishing Multilateral Power Trade in ASEAN (Aug 2019)”とASEAN UPの図を基に著者作成

 図は、APGの進捗状況を国家間別にあらわしたものである。北地域では連系が進んでおり、タイとラオス⑨では、すでに3.6GWが運用中で1.9GWの増設計画もある。そして、ベトナムとラオス⑩・カンボジア⑫もそれぞれ0.5GW・0.2GWずつが運用中である。また、タイとカンボジア⑭も、0.1GWと送電容量はあまり大きくないが運用中である。さらに、ラオスとカンボジア⑬については、0.3GWの計画が進行中である。

 南地域では、北地域のタイとマレーシア(半島)②がすでに0.4GWで連系されているが、マレーシア(半島)とシンガポール①で0.5GWが運用中である以外はあまり進んでいない。

 東地域では、インドネシア(西カリマンタン)とマレーシア(サラワク)⑥が、0.2GWで運用中であり、マレーシア(サラワク・サバ)とブルネイ⑧は0.1GWの計画が進行中である。また、国際間ではないが、マレーシア(サラワク・サバ)とマレーシア(半島)③間の連系線は、海の区間が少なくとも600km以上で、最長1.000km程度になる可能性がある。長距離の海底ケーブルが必要となるが、こうした長距離プロジェクトで先行する欧州では、オランダとノルウェーを結ぶ580kmのNorNed3が運用中であり、計画中の国際連系線としては、英国とノルウェーを結ぶ714kmのNSL(North Sea Link)4、英国とデンマークを結ぶ760kmのViking Link5、英国とアイスランドを結ぶ約1,000km のIce Link6などの構想がある。こうした例を考えると、マレーシア(サラワク・サバ)とマレーシア(半島)の連系線は技術的には充分実現可能である。

 米国国際開発庁(USAID)と米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)による、東南アジアにおける水力・太陽光・風力のポテンシャルをとりまとめた「Exploring Renewable Energy Opportunities in Select Southeast Asian Countries(Revised Jun2020)」によれば7、水力のポテンシャルはインドネシアとミャンマーに多く、太陽光に適した土地はタイとミャンマーに多くある。陸上風力に適した土地はミャンマーとベトナムに多くあり、また、世界銀行によれば、ベトナムの洋上風力発電のポテンシャルは、着床式で261GW浮体式で214GW、計475GWあるとされており 、大きなポテンシャルがある。

 ASEAN各国の膨大な自然エネルギーポテンシャルを活用するために、国際連系線を推進していくことが望まれる。
 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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