[解説] 2025年4月28日イベリア半島(スペイン・ポルトガル)大規模停電に関する「ENTSO-E最終報告書」

2026年6月4日

2025年4月28日にイベリア半島(スペイン・ポルトガル)で発生した大規模停電事故について、欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E:European Network of Transmission System Operators for Electricity)は、2026年3月20日、最終報告書を公表しました1。公益財団法人 自然エネルギー財団はこのたび、ENTSO-E最終報告書の内容を日本語で解説する資料を公開しました。

原因は自然エネルギー発電設備そのものではなく、電力系統の運用・制御体制の課題

ENTSO-E最終報告書は、大規模停電事故の要因について、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー発電設備そのものではなく、大量に導入されたインバータ駆動型発電設備や分散型エネルギーリソースに対して、電力系統の運用・制御の仕組みが十分に対応できていなかったことを指摘しています。

停電発生当時、スペイン国内の電力供給の多くは、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー発電設備によって担われていました。このため、事故直後には、自然エネルギー発電設備が停電の原因であるとの見方もありました。しかし、ENTSO-E最終報告書は、事故の背景には無効電力制御の課題があったことを明らかにしています。

電力系統を安定的に運用するためには、実際に消費される「有効電力」だけでなく、電圧の維持に関わる「無効電力」を適切に制御することが重要です。従来、太陽光発電や風力発電などのインバータ駆動型発電設備では、有効電力の出力に対して一定の比率で無効電力を供給または吸収する「力率一定運転」が広く採用されてきました。一方で、この方式では、系統電圧の変動に応じて無効電力を柔軟に調整することが難しく、電圧変動を積極的に抑制する機能には限界があります。

大規模停電発生時、スペイン国内の多くのインバータ駆動型発電設備は、系統運用者の指示により、無効電力を吸収する、すなわち系統電圧を低下させる方向で運転されていました。しかし、何らかの要因により電圧上昇が生じ、それに伴いインバータ駆動型発電設備の解列が発生すると、これら設備による無効電力の吸収機能も失われました。その結果、系統内で無効電力が余剰となり、さらなる電圧上昇を招く連鎖的現象が生じました。

また、スペイン国内の送電系統は、系統電圧を調整する設備の一部が手動操作であったため、急激な電圧変化への対応が間に合わず、十分な電圧制御を行うことができませんでした。さらに、大型発電機の振動抑制に用いられる電力系統安定化装置(PSS:Power System Stabilizer)が設置されていない事例や、設置されていても十分に機能しなかった事例も確認されています。ENTSO-E最終報告書は、こうした複数の要因が重なった結果、大規模停電に至ったと結論付けています。

これを受け、ENTSO-Eは21項目の再発防止策を提示し、その一部はすでに実施されています。例えば、インバータ駆動型発電設備における無効電力制御方式については、送電系統に接続された出力5MW以上の発電設備を対象に、2026年1月から、従来の「力率一定運転」から「リアルタイム電圧制御運転」への移行が開始されています。

日本でも今後、太陽光発電、風力発電、蓄電池など、インバータ駆動型発電設備のさらなる導入拡大が見込まれています。今回の事故は、多様な発電設備、変電設備、蓄電設備、需要家を含むすべての系統利用者が、電力系統の安定運用に貢献する仕組みを構築することの重要性を示しています。自然エネルギーを主力電源として活用していくためには、有効電力に加え無効電力を含めた電力系統全体の運用・制御技術を高度化していくことが不可欠と言えるでしょう。  

<目次>
1. 要旨
2. はじめに(停電発生時のスペイン国内電力需給状況)
3. イベリア半島大規模停電の事象詳細
4. 停電の原因分析と対策
5. さいごに
参考文献

<関連リンク>
情報提供 スペインのブラックアウトについて(2025年7月3日)

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织