自然エネルギーの大量導入は、持続可能な社会実現のための礎です。世界が化石燃料から「自然エネルギー時代の安全保障」へ向かう中、自然エネルギーは、ますます重要性が高まり、エネルギー転換が加速しています。その中でも、海上で発電する洋上風力は賦存量が大きく、近年、世界各国で導入が加速し、コスト低下が進んでいます。長い海岸線と排他的経済水域世界6位という広大な海域を有する日本にとっては、洋上風力は非常に有望な自然エネルギーです。
本提言を作成するにあたり、自然エネルギー財団は、有識者で構成される「洋上風力 地域・漁業との共生研究会」を設置し、洋上風力と地域が共生するために必要なルールと基準について検討を行いました。先行する海外事例や日本固有の慣習についても議論しながら、現制度の評価や比較などを通して、地域共生に向けた14の提言をまとめました。
洋上風力開発における地域調整プロセスを透明化・標準化することで、各利害関係者に予見性を与え、洋上風力に対する不安や不備を少しずつ取り除き、地域の混乱が抑制されます。本提言が、日本において地域と共生する洋上風力の発展拡大に貢献できれば幸いです。
<目次>
はじめに
提言一覧
第1章:利害関係者とともに進める洋上風力事業
第1節:自治体主導で地域住民や漁業者の理解を進める仕組みを作る
第2節:早期段階での利害関係者の特定
第3節:透明性と客観性のある地域調整プロセスの確立
第2章:客観的データの重要性
第1節:漁業影響調査手法の標準化
第2節:漁業影響調査の主体の明確化
第3節:漁業影響の軽減と補償
第4節:科学的なデータの公開と共有
第3章:地域共生のあり方
第1節:地域振興・漁業振興策作成プロセスの標準化
第2節:地域振興予算
第4章:必要な体制と枠組み
第1節:洋上風力政策司令塔の一本化とワンストップ窓口の設置
第2節:国と自治体の役割分担
第3節:地域調整担当者の明確化
第4節:セントラル方式への移行と地域調整
第5章:地域共生ガイドラインの策定
(1):調査・計画段階に関連する事項
(2):準備段階に関連する事項
(3):建設・運転段階に関連する事項
提言一覧
【提言1】 |
【提言2】 |
【提言3】 国は透明性と客観性のある地域調整のルールを作成し、都道府県がそのルールを運用する。 |
【提言4】 調査実施主体・調査費用の負担・調査手法の決定プロセス・調査項目・調査頻度・調査時期など、漁業影響調査の標準化を行い、国がガイドラインとしてまとめる。 |
【提言5】 正確な漁業影響の検証のために、事業計画の早期段階から地域調整と並行して漁業影響調査を実施する。漁業影響調査の調査主体は、事業者選定前後でそれぞれ国と選定事業者が担い、実際の調査は都道府県の水産試験場など現場の海域に詳しい第三者機関に委託して調査する。 |
【提言6】 漁業補償については、補償を受ける漁業者の基準と補償の算定方式を全国的に標準化する。標準化された算定方式を用い、客観的データにもとづいて、補償額を算出、補償を実施する。一連の過程が適切におこなわれるよう、国が議論を導いていく。 |
【提言7】 漁業影響調査で得たデータは、地域の漁業者の利便性を念頭に、公開後の影響も勘案した上で、基本的に公開とする。 |
【提言8】 地域・漁業振興策は、当事者である地域や漁業者が主体となって検討、作成する。国は、プロセスを標準化し、自治体と共に、地域・漁業振興策の標準となるフレームワークを提示する。また、各地の活動を金銭的に支援する。 |
【提言9】 地域・漁業振興策は、地域の利害関係者が主体となり策定し、自治体と共に実現していく。こうした振興策実現のための予算には、現在の事業者が用意する基金以外にも、電源立地地域対策交付金制度を洋上風力に適用することを検討する。 |
【提言10】 洋上風力政策の司令塔を一本化する。また、事業手続きに関するワンストップ窓口を設置し、手続きの円滑化・迅速化を図るとともに、利害関係者と行政それぞれの負担を軽減する。 |
【提言11】 |
【提言12】 合理的で透明性の高い地域調整のために、選定事業者と地域利害関係者側で、調整担当者を定め協議の手順を明確化する。客観的なデータに基づいて議論を行う。 |
【提言13】 国が検討している「“日本版“セントラル方式」の対象として、地域調整も盛り込む。特に、初期の地域調整は、国主導で都道府県や自治体と行う。 |
【提言14】 国は、自治体や事業者の意見も聞きながら、「地域共生ガイドライン」(仮称)を策定する。ガイドラインは、事業者や自治体、漁業者を含む地域住民を対象とし、洋上風力の開発プロセスに応じて、各利害関係者の役割と手順を明示したもので、地域調整・共生のための参考情報とする。 |