情報提供スペインのブラックアウトについて

2025年7月3日

 

 本年4月28日にスペイン及びポルトガルで発生したブラックアウトに関して、6月中旬にスペイン政府が調査報告書を公表しました。ほぼ同時に、スペイン電統運用会社REEも報告書 を公表しています。これらの報告書は、ブラックアウトの発生にいたる経緯を分析し、スペインにおいて自然エネルギーが電力供給の高い比率を占めていたことがブラックアウトの原因とする意見を否定し、複合的な要因による電圧制御の失敗によりブラックアウトに至ったとしています。

 今回、本件に関する正しい情報を提供するため、長らくロイター通信でエネルギー問題に関する上級アナリストを務めたジョン・ケンプ氏の論評をご紹介することとしました。欧州の送電事業者のネットワーク組織であるENTSO-Eでも、ブラックアウトについての調査が進められています。自然エネルギー財団では、今後も本件に関する様々な情報を紹介していきます。



スペインの大規模停電、電圧制御の不備が原因と政府報告
ジョン・ケンプ

原文 Spain’s blackout blamed on poor voltage control (2025年6月19日)はこちら
※本稿は参考和訳です。原文(英文)との間に矛盾や相違がある場合は英文が優先します。

 スペイン政府の公式調査によると、同国で発生した大規模停電の原因は、送電網における過電圧と、それに対して発電所が必要な無効電力を十分に吸収できなかったことにある。政府調査団は、サイバー攻撃が停電の要因となった証拠はなく、再生可能エネルギーの比率の高さがネットワーク全体に連鎖的な故障を引き起こした直接的な原因であったと断定しなかった。1 

 一方で、電圧を許容範囲内に維持するために必要な同期型発電が十分に系統に接続されておらず、接続されていた発電機も期待されたように動作しなかったと指摘した。追加のサーマル発電所(訳注:スペイン政府報告書におけるサーマル発電とは、広義の意味の熱発電で、原子力も含まれている)を接続しようとする試みは、系統の不安定化と繰り返される過電圧の悪化による崩壊を防ぐには遅すぎたとしている。

 調査報告書は、同期型発電機に対する既存の電圧制御義務をより厳格に適用すること、ならびに系統全体にわたって同期補償装置を導入することによって、安定性を向上させるべきだと勧告した。また、非同期型発電機(風力・太陽光など)について、将来的に電圧制御への貢献を促すインセンティブを導入すべきだと結論づけている。

 今回の不安定化は、イベリア半島からウクライナやトルコまで拡がる欧州全体の送電網から発生したものではなく、スペイン国内で発生したものであるとみられている。ただし報告書は、スペインが大陸全体の送電網と比較して孤立していることが、不安定化を悪化させた可能性も指摘している。フランス経由の連系線がスペインの系統容量に占める割合はわずか3%で、EU規則が推奨する15%を大きく下回っている。欧州全体の送電網との連系がさらに強化されていたとしても今回の停電が防げたとは限らないが、これは長年求められてきたEUの目標であり、調査団も改めてその必要性を強調している。

過電圧

 4月28日午前の電力需要は比較的低く、それがスペインの送電網で繰り返し発生した過電圧の一因となった。停電前のスペイン本土系統における総需要はわずか25,184メガワットにとどまり、過去の最大需要44,876メガワットを大きく下回っていた。気温が穏やかであったこと、正午という時間帯、そして週の初めである月曜日という条件が、需要の低さに影響した。需要が低いと、系統が設定している安全な運用範囲を超えて電圧が上昇し、送電網の安定性を脅かす可能性がある。

 スペインの主な送電系統では、目標電圧は400キロボルトとされており、規則では電圧を380キロボルトから435キロボルトの範囲内に維持することが定められている。4月28日午前、電圧は繰り返し400キロボルトを大きく上回るスパイクを示したが、停電直前までは最大許容値を下回っていた。繰り返される電圧スパイクは、系統に問題が生じている兆候であった。電圧の急上昇はすばやく抑え込まれたものの、調査団はこの不安定状態を「非典型的かつ異常」であると表現している。

 送電系統オペレーター(TSO)は、系統全体の電圧を下げるため、複数の送電回路を追加接続する対応をとった。状況がさらに悪化する中、TSOは国内のあるサーマル発電所に対し、電圧制御を改善するために、起動して系統に同期接続するよう要請した。要請が出されたのは12時26分だったが、送電系統はそのわずか7分後の12時33分に崩壊した。その発電所は14時に接続される予定だった。

連鎖的な系統崩壊

 報告書が示すタイムラインによると、12時05分と12時20分に深刻な電圧スパイクが発生し、それを受けてTSOは、次に使用可能なサーマル発電所に14時の起動を要請した。しかし、電圧は上昇を続け、12時32分にはスペイン中部および南部スペインの一部で、運用上の最大許容値である435キロボルトを超える急騰が発生した。

 複数の小規模発電所が過電圧に反応して自動的に系統から切り離され、それによって周波数が急低下した。その結果、さらに多くの発電所が切り離されていった。原因は電圧が高すぎたこと、あるいは周波数が低すぎたことによる。わずか20秒の間に非常に多くの発電所が切断され、送電系統は完全崩壊へと向かう状況に陥った。

 電圧と同様に、周波数も目標値に近い状態で維持しなければ、発電機や需要家が使用する高価な機器に損害を与えるおそれがある。欧州では、周波数の目標値は1秒あたり50ヘルツであり、周波数が49.0、48.8、48.6、48.4、48.2、48.0ヘルツへと段階的に低下した場合に備え、リレーによって自動的に負荷を遮断する仕組みが設定されている。負荷遮断は、系統の安定性を守るために、ユーザーを切り離して需要を発電能力に見合った水準まで下げることを目的としている。

 今回のケースでは、周波数の急低下によって、6段階すべての低周波による負荷遮断が1.5秒以内に発動され、多くの需要家が系統から切り離された。そのわずか1秒後、周波数は緊急時の下限値である47.5ヘルツを下回り、さらに低下して46.1ヘルツ強まで落ち込んだ。この時点で電圧は470キロボルトに達していた。調査報告書によれば、この負荷遮断は、電圧の問題を緩和するどころか、かえって不安定性を増幅させた可能性があるという。

 深刻な過電圧と極度の低周波という二重の状況の中で、残っていたすべての発電機が次々と系統から切断し、送電網は完全に崩壊した。外部との安定的な接続が失われたことを受け、原子力発電所は安全装置として、制御棒が炉心に挿入され、核反応を停止する自動シャットダウンが行われた。

周波数と慣性

 この停電が発生して後、私を含む多くの論者が、今回の停電は、スペインにおけるインバータ型の再生可能エネルギーへの過度な依存と、同期型サーマル発電による回転慣性の不足が原因だったのではないかと疑問を呈した。しかし調査報告書は、慣性については、停電発生前の送電系統には、計画上の要件を満たしたうえ、ある程度予測可能な大規模発電喪失にも耐えられる十分な慣性が備わっていたと結論づけた。

 調査報告書が根本的な原因として特定したのは、周波数制御ではなく、電圧制御の不備であった。

 午前中の周波数の変動は比較的小さく、連鎖的な系統崩壊がすでに進行していた段階までは、周波数はおおむね目標値に近い状態で維持されていた。電圧と周波数はいずれも電力品質の要素であり、本質的に密接に関連しているが、送電系統の設計や運用においては、通常、別々に取り扱われている。2

 今回の事例では、最初の切断を引き起こしたのは過電圧であり、それが周波数の低下を招き、さらに多くの発電機の切断を引き起こす原因となった。調査報告書は、連鎖的な系統崩壊を引き起こした最初の衝撃は、過電圧に反応して発電側が系統から切断されたことによるものであると断定した。

 停電発生直前には、十分な慣性が確保されており、予備の発電能力も充分に待機していた。調査報告書は、たとえ慣性をさらに増やしていたとしても、過電圧によって引き起こされたこの連鎖的崩壊を防ぐことはできなかったであろうと結論づけている。

サーマル発電所

 停電直前、スペイン本土の系統における発電の大部分の82%が水力含む再生可能エネルギーで賄われており、その他は原子力が10%、ガス火力が3%、石炭火力1%、コージェネレーションおよび廃棄物発電が4%を占めていた。

 電圧制御を担う特定の義務を負った発電所は、系統に接続されているもののうちわずか11か所、すなわちガス火力6か所、原子力4か所、石炭火力1か所であった(訳注:スペイン政府の報告書内では、他の箇所で違う数値も上げられており、「原子力3基、ガスコンバインドサイクル7基の計サーマル発電所10基、プラス運転停止されたままのサーマル発電所1基が系統につながっていた」とも記述されている。サーマル発電所の数が非常に少なかった事実は同じであるため、今回の原稿に即してこのまま11カ所のカウント・内訳とする)。

 太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、技術的には電圧制御に貢献できるが、これらの発電所に対しては法的な義務が課されていなかった。

 調査報告書は、電圧制御義務を負うサーマル発電所の接続数(11カ所)が、今年これまでで最少だったと指摘している。2025年1月1日以降、サーマル・ユニットが12基並列された日は13日間しかなく、それ以外の日は13基以上であった。そして、追加のサーマル発電所を系統に接続するよう指示した決定は、悪化する電圧の不安定性を回避するには遅すぎた。

 調査報告書は、すでに系統に接続されていた複数のサーマル発電所が、過電圧に対して期待されたとおりの応答を示さなかったことも指摘している。それらの発電所は、必要とされる無効電力を十分に吸収しなかった(電圧制御能力の低下)か、場合によっては無効電力を発生させてしまい(過電圧の悪化)、状況をさらに悪化させた。

 また、調査報告書は、南部のある発電所について「当時接続されていた他の発電所と明らかに異なる挙動を示した」とし、それが「電圧制御上、不適切な動作であった」としている。

 そして、送電網に直接接続されている大口需要家141社のうち20社が、電圧制御をサポートするという義務を果たしていなかったことも明らかにしている。さらに、高圧送電系統に接続されている地域配電網の接続点の9〜21%が、電圧制御をサポートするという期待された動作を行っていなかったことも判明した。

 調査報告書は、こうした広範なネットワーク参加者が「電圧の上昇に寄与したか、少なくとも、TSOが期待したほどには状況の改善に貢献しなかった」と結論づけている。

再生可能エネルギー vs サーマル発電

 停電の原因をめぐる初期の議論では、インバータ型の再生可能エネルギー(特に太陽光)の比率が非常に高かったことが、この障害の根本原因だったのではないかという点をめぐって意見が分かれた。一方で、系統を安定させるための回転慣性を提供する同期型サーマル発電の接続量が少なすぎたのではないか、というものもあった。

 調査報告書は、4月28日時点での再エネの比率が高すぎたとか、慣性が足りなかったという主張を退けている。一方、電圧制御の主たる担い手はサーマル発電所であると指摘し、それらの数があまりに少なく、また期待されたほどの効果を発揮していなかったことは認めている。そしてこの指摘は、結果的に、インバータ型再生可能エネルギーの比率が非常に高くなったときに系統の安定性が確保できるのかという問いを、改めて間接的に提起する形となっている。

 調査報告書では、再生可能エネルギーの周波数制御への影響ではなく、電圧の安定性への影響に焦点があてられている。「電圧の安定性と太陽光発電の量、あるいは同期型発電の接続量との間には一定の相関が見られるが、その相関の強さは地域によって異なる」としている。

 そして、再生可能エネルギーが電圧制御に貢献できない本質的な理由は存在せず、技術的には可能であり、周波数制御と同様に、法的義務付けや財政的インセンティブによって対応可能であると指摘している。 さらに、同期コンデンサ、静的同期補償装置(STATCOM)、および柔軟な交流送電システム(FACTS)といった装置が電圧制御に貢献し得るとしている。これらの一部はすでにスペインの送電網に導入されているという。

 また、調査報告書は、既存の電圧制御義務に違反したサーマル発電所には、財政的な罰則を科すことを提案している。そのうえで、電圧制御に関する新たな補助サービス市場の創設を促しており、それは技術に中立で、サーマル発電所に限らずすべての系統参加者(訳注;にも開かれたものであるべきだとしている。調査報告書は、半島全域にわたる同期補償装置の配備や、電圧変動の抑制能力を強化するためのFACTSシステムの更新も求めている。

 これらは、再生可能エネルギーの導入を優先するスペインの方針を踏まえたものであり、全体としての目標は、再エネ比率が上昇しサーマル発電が減少する中でも、電圧制御を向上させることにある。調査報告書は、こうした措置をとることで、「コスト削減」、「排出削減」、「再生可能エネルギーの出力抑制の削減」、「発電形態を問わずすべての発電事業者にとっての新たな収益源の創出」、という4つの利点が生まれると主張している。

結論

 スペイン政府の調査報告書は、4月28日に発生したイベリア半島全域にわたる大規模停電について、詳細な時系列と要因の説明を提供している。結論として、この連鎖的な大規模停電の根本原因として、周波数制御の問題ではなく、電圧制御の不備を挙げている。また、調査報告書は、今回の障害の責任を特定の一機関に帰することを慎重に避けており、今後何年にもわたって議会や司法の場で争われる可能性のある、政治的・法的責任に関する困難な判断を回避している。

 その代わりに、その責任が、TSO、サーマル発電所、大口電力需要家、地域配電会社など、幅広い関係者の間に分散していることを示唆している。今回の停電の責任は、特定の機関にあるのではなく、システム全体に関わるすべての関係者が、本来あるべき形で機能しなかったという、集団的な失敗に起因するというものだ。

 今回、スペイン政府は、慣性の有無よりも電圧制御の方に焦点を当てることで、「再生可能エネルギー vs サーマル発電」という対立構図を避けた。しかし同時に、これと密接に関係する重要な問い、すなわち「系統には十分な電圧制御能力が備わっていたのか」、そして「再生可能エネルギーの比率が上昇しサーマル発電が減少していく中で、電圧の変動をどのように管理していくのか」という問題を、より鋭く浮き彫りにした。

 予想されたとおり、調査報告書において提案された解決策の多くは類似しており、新たな補助サービスの創設とその対価の支払い(インセンティブ)や、系統のバランスをとるためのテクノロジーの活用拡大が柱となっている。

  • 1Report of the Committee for the Analysis of the Circumstances that Occurred in the Electricity Crisis of April 28, 2025 (Council of Ministers, Government of Spain, 17 June 2025).
  • 2Voltage and Frequency Dependency (U.K. National Energy System Operator, undated website document).
【著者紹介】
ジョン・ケンプ(John Kemp)

エネルギー分野の専門家であり、市場動向、価格形成、リスク管理、予測、技術、国際関係、エネルギー政策およびエネルギー安全保障に関して広範な知見を有する。2008年から2024年にかけては、ロイターにて上級市場アナリストを務め、石油、ガス、電力、排出権、エネルギー転換分野を担当した。また、穀物、非鉄金属、アジア商品市場における第一線の専門家チームを率いた。
ロイター入社以前は、現JPMorgan傘下のSempra Commoditiesにて工業用金属のアナリストとしてトレーディングフロアに勤務していたほか、キャリア初期にはOxford Analyticaにて世界経済および米国公共政策を対象とする調査・執筆業務に従事した。オックスフォード大学にて哲学・政治・経済(PPE)を修める。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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