ドイツ ベルリンにおける太陽光発電設備の設置義務化に関する政策と条例

一柳 絵美 自然エネルギー財団 研究員

2022年6月10日

 ドイツでは、2022年3月時点で、16州のうち10州で、太陽光発電設備の設置義務を条例化あるいは計画・検討中である1。州ごとに設置義務の対象は異なるが、3州ではすでに2022年1月から義務化が始まっている。また、首都ベルリンを含む4州では、2023年1月からの義務化が予定されている。東京都でも太陽光発電設備の設置義務付けの方針を公表している。それを念頭に、ベルリンの近年の気候・エネルギー政策や2つの条例の内容を中心に、太陽光発電設備の設置義務化に関する動向を紹介したい。

2045年までの気候中立と2030年までの脱石炭方針、公共建物での自然エネルギー拡大

 ドイツの都市州であるベルリン市は2、遅くとも2045年までの気候中立を目指す。2016年施行の「ベルリン気候保護・エネルギー転換条例 (EWG Bln) 3」は、同市の気候・エネルギー政策のための主要な法的枠組みである。2021年版の改正条例では、CO2排出量削減目標を強化し、「1990年比で2030年までに少なくとも70%、2040年までに少なくとも90%、遅くとも2045年までに少なくとも95%削減(3条)」と規定する。ベルリンは、ドイツ国内の州としてはじめて石炭の段階的廃止を条文に明記し、電気・熱部門で、「褐炭によるエネルギー生成を2017年末までに、瀝青炭によるエネルギー生成を遅くとも2030年末までに終了するため尽力する(18条)」。2017年には、すでにベルリン最後の褐炭火力発電所が停止している4。そして、「自然エネルギーの拡大に基づく、安全で、安価で、気候に適合した電気・熱のエネルギー生成と供給に努める(18条)」。自然エネルギー拡大の重点分野として、公共建物を挙げ、「公共建物やその周辺、その他の公共空間での自然エネルギーの生成と利用の拡大を目指す(19条)」としている。

2050年までに太陽光で電力需要の25%供給、太陽光発電設備の新設で蓄電設備に補助金

 ベルリンの太陽光拡大促進のための27の施策を定める2020年3月の「ソーラーシティマスタープラン」は、遅くとも2050年までにベルリン市内の電力需要の少なくとも25%を太陽光エネルギーで賄うことを見据える。本件に関して公式に専門的な助言を行うフラウンホーファーISE(太陽エネルギーシステム研究所)は、この目標達成は実現可能であり、そのためにはベルリン市内の屋根に約4,400MWpの太陽光発電設備を設置する必要があるとしている5。ベルリンは、2020年と2021年に、このマスタープランに関する年間モニタリングレポートを発表している6。それによると、ベルリン市民に対する支援プログラム「エネルギー貯蔵プラス7」によって、2021年9月までに1,029件の申請が受理され、9.4MWpの太陽光発電の追加容量が実現した。この支援プログラムは、太陽光発電設備を新たに設置する場合にのみ、蓄電設備に対する補助金を支給するものである。蓄電容量1kWhにつき300ユーロ(約42,000円)の補助金が支払われ、総額は、1設備あたり15,000ユーロ(約213万円)を上限とする。この補助金に対する需要が高いため、本プログラムは2022年末まで延長されている。

2023年から太陽光発電設備の設置義務化、2024年末までに公共建物の屋根全面に原則設置

 2021年7月施行の「太陽条例ベルリン(SolarG Bln)8」は、2023年1月から市内での太陽光発電設備の設置義務化を定める。本法の目的は、ベルリン市内の屋根面の太陽光の潜在能力を有効活用し、気候保護目標の達成に重要な貢献をすることである。今後5年以内のCO2削減効果は年間37,000トンと試算している9。また、グリーン経済の強化も期待している。

 本条例による義務化の対象は、新築建物と「実質的な屋根の改修」が行われる既存建物である 10。対象者となるのは、住宅・非住宅の所有者である11。また、屋根置き太陽光発電設備の代替措置として、太陽熱設備あるいは建物壁面への太陽光発電設備の設置も許可する。この5月には、ベルリン市が本条例をQ&A形式で図解した実践手引き書を公開し、市民への情報提供に取り組んでいるところだ12

 加えて、前述の「ベルリン気候保護・エネルギー転換条例」で、公共建物への太陽光発電設備の義務化を別途規定している。公共建物の新築の場合、技術的に利用可能な屋根面の全てに太陽光設備設置を行う。本条例では、「太陽光設備」を、太陽光エネルギーから電気または熱を生成する設備と定義し、太陽光発電だけでなく熱利用も含める。そして、公共建物については、遅くとも2024年末までに、技術的に利用可能な屋根面の全てに太陽光設備設置を目指す13

公共建物に対して国より厳しいベルリン独自の省エネ・断熱性能基準を設定

 さらに、「ベルリン気候保護・エネルギー転換条例」は、公共建物に対して独自の断熱・省エネ性能の最低基準を設ける。公共建物の新築時は、国の新築基準よりも厳しい「効率的な建物40」基準適合を最低基準とし、それ以上の省エネ工法を推奨する14。本基準は、年間一次エネルギー需要が参照建物の40%を超えず、平均熱貫流率が規定の上限値の55%を超えないことを意味する。また、公共建物の大規模改修の場合は、原則として「効率的な建物55」基準に準拠するものとする。これは、年間一次エネルギー需要が参照建物の55%を超えず、平均熱貫流率が上限値の70%を超えないことを意味する。

まとめ

 本コラムでは、2045年までの気候中立を掲げるベルリン市の気候・エネルギー政策の動向や太陽光発電の拡大方針、太陽光発電設備の設置義務化に関する条例の内容を整理した。「太陽条例ベルリン」では、CO2削減やグリーン経済拡大を視野に、2023年から、太陽光発電設備の設置義務化を始める。対象となるのは、住宅・非住宅の新築と、既存建物での屋根面の大規模な改修である。公共建物に対しては、別途「ベルリン気候保護・エネルギー転換条例」で民間の建物より厳しい施策を規定する。たとえば、2024年末までに公共建物の屋根全面に太陽光設備の原則設置を目指すほか、ベルリン独自の省エネ・断熱性能の最低基準を設ける。以上のような義務化と同時に、太陽光発電設備の新設時には、蓄電設備に補助金を支給することで、ベルリンは、アメとムチの政策を両輪で進めている。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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