コロナ危機をきっかけに世界中で持続不可能なエネルギーが淘汰されているこの流れを止めてはならない

トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長

2020年5月11日

in English

本稿は、2020年5月4日のETC(原文スウェーデン語)に掲載された記事を、和訳し転載しています。
  
 2020年第1四半期、原子力と化石燃料による発電量が減少するなか、多くの国や地域で自然エネルギーによる発電が着実な伸びを見せた。
 
 いみじくも新型コロナウイルスがもたらした危機によって、持続不可能なエネルギーが圧倒的なダメージを受けている。もっとも避けなくてはいけないのは、こうして気候危機の回避に向かって着々と進んでいるのに、化石燃料業界を救うために、世界各国の政府が将来の納税者に借金を負わせ、次世代の人々を気候リスクにさらすことである。今ここにある危機は、次世代のためのチャンスでもあるのだ。
 
 新型コロナウイルスの感染拡大により世界中で人の移動が減り、燃料消費が減少している。これに伴って二酸化炭素の発生や大気等の汚染も緩和されている。その結果、多くの人々がより健康になり、より長生きすることになった。
 
 一方で、人の移動の減少は石油価格の下落を招いた。3月20日には米国で原油価格が大きく落ち込み、石油生産者は採算割れに見舞われた。貯蔵施設は満杯の状態になった。生産量が消費量を上回ったためである。今回の原油価格下落で、米国国内の石油会社数百社が倒産するとみられている。
 
 原油安により消費と二酸化炭素排出量がすぐに増加するのではないかと懸念する声もある。しかし、今、石油価格が暴落しているという事実よりもっと重要なのは、これだけ大きな損失が出れば、石油産業の回復に対する投資意欲がさらに減るだろうということだ。こうした状況は将来的な原油価格の上昇につながるだろう。世界の石油消費が増えることは二度とないかもしれない。
 
 そして、輸送部門だけで二酸化炭素排出が減っているのではなく、発電部門や一部の国の産業でも減少している。
 
 電力消費者としては、電力価格が下がることは喜ばしい。世界の多くの国や地域で電力需要が減ったのは、ウイルスの感染拡大を受けて産業界が活動を停止したからだ。加えて、北欧諸国の電力価格が下がったのは、暖冬と、気象条件に恵まれて豊富に発電した風力と水力のためだった。
 
 しかし、消費者が享受する電力価格は、発電事業者にとってはあまりに安すぎる。特に火力発電事業者にとって、電力価格の下落は悪夢である。太陽電池は、晴天が続く限りゼロコストで発電が可能だ。風力タービンも風が吹けば電力を生産するので、コストがかからない。水力発電所は、ダムが満水ならたとえ価格がkWhあたりゼロ円でも発電することになる。太陽光や風力発電の事業者は、市場規制により他のエネルギー事業者が特別な特権を与えられていない限り、電力価格がゼロより高ければ収入が得られる。
 
 開かれた自由競争市場では、燃料代を賄えないくらい電力価格が下がれば、火力発電所は閉鎖に追い込まれる。事業者は全ての収入を失い、消費者はさらに廉価な電力を享受できる。
 
 新型コロナウイルスの感染拡大により、今年始めからすでに規制が導入されている中国では、2020年第1四半期の電力消費量が前年同期より115TWh減少した。化石燃料による火力発電が105TWh減少し、太陽光と風力の発電量は増加した。水力発電はダムに水を湛えたままで発電量は21TWh減少した。
 
 スウェーデンでは、ストックホルムで運転されていた最後の石炭火力発電所Värtaverketが遂に閉鎖された。電力が今のように安い状態では、化石燃料を使用する他の火力発電所も利益を出せない。電力価格がとても低いので、原子力発電も全炉を稼働する事が難しい。2019年末にリングハルス原子力発電所2号炉が廃炉になった。運転を続けられるだけの利益が出せなかったためだ。最も古いリングハルス1号炉は今年末までに廃炉になる予定だったが、現状の電力価格では運転コストが賄えないため、すでに停止している。スウェーデンでは第1四半期に風力と水力の発電量が増加し、原子力、化石燃料、バイオエネルギーの発電量が減少している。
 
 ドイツでは、一気に状況が進展した。化石燃料と原子力による発電が減少する一方で、風力による発電量が増加し、化石燃料の総発電量を上回ったのだ。2月には、風力が原子力と化石燃料の発電量の合計を上回るという画期的な出来事が起きた。
 
 欧州全域では、第1四半期に化石燃料と原子力による発電量がそれぞれ20~25TWh減少し、一方で、風力と水力による発電量はそれぞれ約20TWh増加した。
 
 化石燃料産業の淘汰は、未来に向けて持続的な影響をもたらす。景気が回復し、再びエネルギー需要が増大したとしても、化石燃料産業に投資が戻ることはないだろう。現在、最も安価に新しくエネルギーを提供できるのは、自然エネルギーだ。太陽光や風力発電は、1MWhあたり15~30ドルのコストで展開可能だが、化石燃料と原子力は、その何倍ものコストがかかる。
 
 バッテリーの値下がりが追い風となり、電気自動車の販売シェアも伸びている。自然エネルギーによる電力価格の低さを考えると、直接電気を利用するにせよ廉価な電力で生成された水素を使うにせよ、代わりにわざわざ石油・ガス・石炭を選ぶ必要はないだろう。
 
 電力による大規模な燃料生産が行われるようになれば、燃料生産を風力発電の変動調整に使うこともできる。
 
 化石燃料業界が激しい景気変動によって壊滅的な打撃を被っているのを見れば、次のことがわかる。価格が下がれば資源消費型の化石燃料業界は市場の競争から締め出され、価格が上昇すれば廉価な自然エネルギー電力の設備容量が拡大する。こうしてシステムが進化していくのである。
 
 新型コロナウイルスがもたらした危機は需要を大きく減退させ、化石燃料業界に打撃を与えた。今後は景気回復に伴い、投資が自然エネルギーに向かうだろう。こうした流れにブレーキをかけるものがあるとすれば、政治家が税金を投入して化石燃料業界を救済しようとすることだろう。そうした無駄な行為は何としても食い止めなければならない。
 

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