石炭火力のめでたくない新記録―刻々と迫る気候変動の危機に今すぐ対応を
ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 研究員
先進諸国が脱炭素へと舵を切る中で、日本は環境に最も悪影響を及ぼす燃料への依存を高めている。
日本は石炭資源が少なく、国の石炭需要のほぼすべてを輸入に頼っている。2017年には、一般炭の輸入量が1億1450万トンにのぼり、過去最高記録となった(図1)。
一般炭(燃料炭とも呼ばれる)は、日本の石炭火力発電所の主要な燃料で、その約85~90%が電力部門で使用されている1。
一般炭が燃料として好まれるのは、天然ガスよりも低価格で、価格変動も少ないからである(図2)。
しかし石炭は最も環境汚染の原因となる発電燃料でもあり、本来はその対策に必要なコストを加えるべきである。たとえば、発電による一般炭の炭素排出係数は天然ガスの2倍以上で2、大量に使用し続ければ、人間にも環境にも極めて有害である。
2011年3月(2010年度末)に発生した福島第一原子力発電所の事故の後、原子力による発電量の減少を補うため、石炭とガスによる火力発電が大幅に増加した(図3)。
かつて原子力で供給していた発電量の大半は、すでに省エネルギーと自然エネルギーで賄われているが3、石炭火力とガス火力は依然として多い。石炭火力の発電量に至っては、2017年度に過去最高を記録し、状況の悪化がますます懸念されている。
気候ネットワークの「石炭発電所ウォッチ」によると、日本では現在40基以上(総発電容量20 00万キロワット以上)の石炭発電所の新増設計画があるという4。これらの計画が実現すれば、日本は世界の気候変動対策に乗り遅れるだけでなく、2050年までに国の温室効果ガスを80%削減する長期目標も遠のき、受け入れがたい結果を招くことになる。
世界の先進諸国では、石炭火力からの脱却をめざす潮流が10年ほど前から見られる。これに対して日本の計画は、完全に逆行している(図4)。
主に自然エネルギーのおかげで、米国の石炭火力への依存は2010年から大幅に緩和され、英国やフランスなどの欧州主要国では、10年以内に石炭火力が廃止される(英国は2025年、フランスは2021年までに廃止予定)5。石炭発電への依存がしばしば指摘されるドイツでさえ、2017年の石炭火力発電量は今世紀最低となった6。その結果、2017年のEU(欧州連合)諸国では、風力・太陽光・バイオエネルギーによる年間発電量の総計が、初めて石炭火力の発電量を上回った7。各国での取り組みがもたらした大きな成果である。
これらの国々では、石炭の代わりに安価な自然エネルギーの電力が選択されている。グリーン政策をさらに進めるために、野心的なカーボンプライシングの制度を導入し始めている国もある。
日本は自然エネルギーに恵まれており、世界各国と同じく、収益性と持続可能性が両立するエネルギー政策を実現させる力を備えている。もうこれ以上、時間を無駄にする余裕はないはずだ。