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年頭コラム 脱炭素をめざす世界の流れに日本からの参加を

2018年1月4日

年頭コラム 脱炭素をめざす世界の流れに日本からの参加を

大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事

in English

カナダの自然エネルギーをニューヨークに送る国際送電プロジェクトが始動

 今年2018年、カナダ・ケベック州の自然エネルギーを電力の大消費地ニューヨークに送る国際送電線の建設が開始されます。その目的はニューヨーク州の気候変動対策の柱である2030年自然エネルギー電力50%目標を達成することであり、2021年に稼働停止が予定されているニューヨーク市の北40kmにあるインディアン・ポイント原発の電力を代替することです。

 「シャムプレイン・ハドソンパワーエクスプレス」と呼ばれるこのプロジェクトは、ケベック州からシャンプレーン湖、ハドソン川の水底などを通る総延長500kmを超える直流高圧送電線を新設するものです。2018年に建設を開始し2021年に供給開始を予定しています。

 ニューヨーク州の隣、マサチューセッツ州でも、カナダ・ニューブランズウィック州からボストン近郊まで大西洋を渡る約600kmの海底送電線を敷設し、100万kWの自然エネルギー電力を送電するプロジェクトが進行中です。ここでも2019年6月に稼働停止予定のピルグリム原子力発電所を自然エネルギー電力が代替することになります。

 自然エネルギーの拡大が気候変動対策の中心となり、またそれが原子力発電を代替するこれらのプロジェクトは、いま世界で進行中のエネルギー転換の動きを象徴するものと言えます。

気候変動対策の中心になった自然エネルギー

 11月にボンで開催されたCOP23は、トランプ政権のパリ協定離脱表明にもかかわらず、脱炭素社会をめざす世界の動きがますます加速していることを示しました。印象的だったのは、トランプ政権に代わり、米国の多くの企業・地方政府が「We Are Still In」という連合組織をつくりCOPに参加したことです。この連合は会場敷地内に大規模な独自のパビリオン施設を設置し、連日、カリフォルニア、ニューヨークなどの州政府やウオルマート、バンクオブアメリカ、マイクロソフト、コカ・コーラなどの米国の代表的な大企業が気候変動対策をアピールするイベントを開催しました。

 冒頭に紹介したように、州政府レベルでは気候変動対策の中心的取組みとして、自然エネルギーの拡大が進んでいますが、企業でも同様の取組みが行われています。米国では、REBA(Renewable Energy Buyers Alliance:自然エネルギー購入連合)に参加する100社以上の企業が電力購買力を活用して、2025年までに60GWの新たな自然エネルギー電力の拡大を進めています。

 国際エネルギー機関(IEA)がCOP期間中に公表した「ワールドーエナジーアウトルック」の2017年版では、2017年から2040年までの世界の電源別設備容量の純増加量(年平均)が示され、自然エネルギーが160GWであるのに対し、石炭火力は17GWにとどまるとの推計が示されています。また、かつて「二酸化炭素を排出しないクリーンな電源」として、気候変動対策の中心であるかのように喧伝された原子力発電は4GWにすぎません。

劇的な価格低下が自然エネルギーの大量導入を進める

 こうした自然エネルギーの役割拡大の背景にあるのは、継続的に進む劇的な価格の低下です。2016年9月にアブダビで行われた入札で太陽光発電が2.42セント/kWhという低価格を実現したときには、世界中で驚きの声があがりました。しかし、それから1年後、2017年10月にサウジアラビアでの入札には、1.78セントという応札があったのです。風力発電も2017年11月には、メキシコの入札で1.77セントという世界最安値を記録しています。今や、太陽光も風力も条件に恵まれた地域では、1kWhあたり2セントを切るという驚異的な低価格で発電ができるようになっているのです。

 特別に自然環境などに恵まれた場所でなくても、数セント台という価格が実現するようになっており、世界の多くの国や地域で自然エネルギーは火力発電や原子力より安価な電源になりました。

日本からも脱炭素をめざす世界の流れに参加を

 日本では、昨年からエネルギー基本計画改正と2050年への長期削減戦略の検討が始まっていますが、その中では、依然として原子力発電や石炭火力という過去の技術に固執する主張が繰り返され、自然エネルギーへの根拠のない不信を言い立てる議論が行われています。

 資源エネルギー庁のホームページでは、昨年秋から「原発の発電コストは10.1円/kWh」という2015年の試算を持ち出し、火力発電や自然エネルギー電力より安いというキャンペーンが始まっています。しかしこれは、原発の建設コストを欧米で進む新設プロジェクトの半分以下の見積もった上での数字です。欧米なみの価格を前提にすれば、その発電コストは火力発電より高い14~15円程度になってしまいます。巨大地震や火山噴火など特別のリスクを抱える日本での原発新設が、なぜ欧米の半分以下のコストで可能なのか、その説明は行われていません。

 国の一部で行われているこうした旧態依然の議論とは裏腹に、2017年は日本でも民間企業などで自然エネルギー拡大を目指す新たな動きが開始された年でした。昨年1月の時点では、自社での自然エネルギー電力100%を宣言する「RE100」に参加する日本企業はどこもありませんでしたが、この1年間でリコー、積水ハウス、アスクルの3社が加わりました。これ以外にも多くの企業、大学、自治体などが様々な形で自然エネルギー利用拡大の取組みを強めています。

 日本企業が国内でも安価な自然エネルギー電力を自由に使えるようにしなければ、脱炭素化の進む世界のマーケットで競争力を失うことになります。2018年、自然エネルギー財団は、多くの企業、自治体などとともに、原発と石炭火力から自然エネルギーへの転換を加速する取り組みを進めていきます。また、欧州や北米のように、自然エネルギーの利用拡大と電力コスト低減のため、東アジアにおいても国際送電網の実現が可能であることを具体的に明らかにし、エネルギー転換の展望を示していきます。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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