デンマークの送電事業者(TSO)エナギーネット(Energinet)は、2026年より託送料金を引き下げており、この動きは2027年も続く見込みである(図1)1。世界各地において、データセンターや電気自動車などの拡大に伴う電力需要増に対応するため、また、自然エネルギーの導入拡大に対応するために系統投資が増えている。そのため、いくつかの国では、政府の補助がある場合を除き、託送料金が引き上げられている2, 3 。デンマークは自然エネルギーによる電力の純輸出国を目指した取り組みを進めており、それに伴う送変電インフラの増強も行われている。それにも関わらず、デンマークでは託送料金が下がっている4。本稿では、なぜデンマークの送電事業者が託送料金を引き下げるのか、また、なぜそれが可能なのか、について紹介する。
図 1:エナギーネットの託送料金(2020年より2027年見込み)
託送料金の引き下げを可能とした3つの要因
エナギーネットの託送料金は、システム料金と送電線利用料金の2つで構成されている。簡単に言えば、システム料金は需給調整サービスを含む電力システムの運用にかかる費用を賄うものであり、送電線利用料金は高圧送電網の運用・維持管理にかかる費用に充てられる。
2027年には、送電網の運用コストの増加を反映して送電網料金が引き上げられる一方、システム料金は大幅に引き下げられる。その結果、託送料金全体としても引き下げとなる。
では、エナギーネットはなぜ、システム料金をこれほど大幅に引き下げることができたのだろうか。その背景には、主に以下の3つの要因が挙げられる。
・要因①:需給調整費用の低下
・要因②:電力需要の増加
・要因③:地域間連系線の混雑収入
要因①:需給調整費用の低下
長らく高水準にあった需給調整費用は、2025年の21億デンマーククローネ(DKK)から、2026年には約14億DKKへ減少する見通しとなっている5。その理由は調整力市場への参加者の増加に伴う価格低下である。技術の進歩によって、規模を問わず発電事業者や需要家が需給調整市場に参加できるようになり、競争が進んだ。蓄電池や電気自動車など、柔軟に充放電・稼働を調整できる設備も市場で存在感を増し、また、地域間連系線を通じた国境を越えた調整力融通も行われるようになった。これにより、系統の柔軟性を向上させながら需給調整費用の削減が実現した。
要因②:電力需要の増加
電化の進展を含む電力需要の増加によりエナギーネットの収入が増加した。電力需要が増えれば、託送料金で回収する費用を、より多くの電力量に分散できる。電力需要は2026年に前年より約10%増加し、2027年にはさらに4.2%増加すると予測されている。その一因が電化であり、電気自動車の導入に伴う運輸部門の需要増と地域熱供給の電化が代表例として挙げられる。2025年の新規乗用車登録台数に占める電気自動車の割合は68.5%に達している6。また、住宅暖房や地域熱供給でも、ガスを使う設備からヒートポンプや電気ボイラーへの移行が進んでいる。
図 2:エナギーネットの2027年の収入構成見通し、総収入:101億デンマーククローネ
要因③:地域間連系線の混雑収入
託送料金引き下げを可能にした3つめの要因が、地域間連系線の混雑収入の増加である。エナギーネットの2027年の収入見通しに占める混雑収入の割合は37%となった(図2)5, 7 。これは、2026年の33%より増加した。欧州大陸は国ごともしくは国内に複数の入札ゾーンが設けられ、入札ゾーン間の送電容量を超えると系統混雑とみなされ、ゾーン間に価格差が発生する。この価格差は関連する地域間連系線を運用するTSOの収入となる。
現行の欧州連合(EU)の規制では、地域間連系線の混雑収入の使途に制限が設けられている。混雑収入はまず、割り当てられた地域間連系線送電容量の利用を保証すること、地域間送電線容量の維持・拡大、または送電容量の制約によって影響を受ける洋上再生可能エネルギー発電事業者への補償に充てなければならない。これらの優先目的を十分に満たした場合に限り、規制当局は託送料金の設定などに際して、混雑収入を考慮することが認められている8。
デンマークの特徴は、国の規模に比して連系線の数が多い点にある。エナギーネットは現在、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、オランダ、英国との国際連系線に加え、デンマーク東西を結ぶ国内連系線を運用している9。2021~2022年のエネルギー危機で欧州の電力価格差が急拡大した結果、エナギーネットには多額の混雑収入が蓄積された。これに、2024年の英国との1.4GWの連系線の運用開始も重なり10、図3に示すように、連系線の混雑収入は歴史的に高い水準となっている11, 12 。エナギーネットは2026年の託送料金の設定において、混雑収入を託送料金の抑制のための「戦略的な手段」として活用すると明記し、託送料金設定における混雑収入の重要性を強調した7。
図 3:Energinetの地域間連系線からの年間混雑収入(2020~2025年)
報告書「Fremskrivning af Energinets eltariffer 2024–2026」(2023年9月)より自然エネルギー財団作成
託送料金の引き下げる理由
エナギーネットは他のTSOと同様に、自然エネルギーの導入拡大と電力需要の増加に対応するため、送電網の拡張、近代化、安全性の確保をかつてないほど強く求められている。その状況は、系統整備事業の件数が2020年の65件から2025年の184件へ増え、事業総額が136億DKKから964億DKKへ拡大したことに表れている。また、現在の最大需要が約7GWの系統に対し、接続待ちの容量は60GWに達している5, 13, 14, 15。それにも関わらず、なぜこのタイミングで託送料金を引き下げるのだろうか。その理由についてエナギーネットは、2つの理由を挙げている。
・理由①:託送料金の引き下げによって電化をさらに促進させる
・理由②:企業に対し、電気料金の安定性と予見可能性を高める
1点目について、上述の通り、デンマークの電力需要は確実に増加しているものの、隣国スウェーデンと比べた場合、電化の割合はまだ低いという統計もある。2025年のデンマークの最終エネルギー消費に占める電力の割合は21.3%であったが、隣国スウェーデンは36%であった。電化をさらに進める余地があると考えられ16、エナギーネットは託送料金を引き下げることにより、さらに電力需要の増加を促したいと考えている。
2点目について、これは企業による投資を阻まないことを意図した戦略である。今後、大規模な需要増を牽引するとみられるのがデータセンターやPower-to-X(主に水素製造)などの大口需要家である。データセンターは現在、デンマークの電力消費の5%を占め、今後もその割合は増加すると予想される5が、その見通しは不透明である。
また、大規模なPower-to-X事業についても多くが開発段階である。西部のエスビャウでは出力1GWの水電解設備が計画され、南部では最終的に最大2GWの水電解設備を目指す事業が進められている17,18 が、これら事業の多くが、EUの他地域における水素需要などに左右されるため、最終的にデンマーク国内でどの程度の規模で、いつから始まるのか、などが定まっていない5。
データセンターやPower-to-Xなど、新たな大口需要家に対して、デンマーク国内の託送料金には安定性があり、かつ予見可能性があると感じさせることは、新たな需要を呼び込む際に重要となるのである。
なお、参考までに図4にエナギーネットの2027年の費用構成を示す。送電系統関連費用(系統の開発・維持管理)は全体の44%を占め、これには送電線やケーブルの敷設だけでなく、系統の安全性・安定性を確保するための投資も含まれる。具体的には、インバータ駆動の非同期電源を系統に統合するための制御システムや、系統の安定性を維持するための新たな手法への投資なども含まれている。また、多くの機能がデジタル化するにつれ、ITセキュリティやITシステム開発に対する投資も重要になっている19。すなわち、系統の拡張や安全性の確保に伴う根本的な費用増加圧力は消えておらず、需要の増加と電化の進展は、送変電設備への投資をさらに強めると考えられている。
図 4:エナギーネットの2027年の費用構成見通し、総費用:101億デンマーククローネ
さいごに
今回紹介したエナギーネットの事例は、系統投資の拡大が直ちに料金の上昇につながるとは限らないことを示していると言える。電力消費の拡大、足元の需給調整費用の低下、混雑収入の増加によって、その圧力の一部を相殺することはできる。
さらに、送電会社として新たな需要を呼び込むことを目指し託送料金を低水準にとどめおくことで、さらなる電力需要が生まれることを期待していることも注目に値する。送変電設備の設備利用率が上がることは、託送料金を低水準に据え置くことが可能となる要因となるためであり、電化ならびに大口需要家を呼び込むための戦略的取り組みが、デンマーク送電事業者の託送料金に表れている。。
その一方で、自然エネルギーを系統に統合するための仕組みやITシステム等に対する新たな投資を惜しむわけではなく、新たな投資は着実に行っている。すなわち、投資すべきことには投資を行い、戦略的に電力需要を増やすことで託送料金の引き上げ圧力を緩和し、結果的に国の目標であるグリーンエネルギーの純輸出国の実現とカーボンニュートラルの達成を実現しようとする取り組みが、デンマーク送電事業者の託送料金に表れている。
- Energinet、ウェブページ「Aktuelle tariffer」、2026年10月1日アクセス。
- ENTSO-E、報告書「Overview of Transmission Tariffs in Europe: Synthesis 2025」(2025年7月)、4、24頁、2026年10月1日アクセス。
- ドイツ連邦政府、ニュース記事「Energy Price Relief Measures Take Effect」(2026年2月17日)、2026年10月1日アクセス。
- デンマークの託送料金は、TSO系統に接続する場合にTSOに支払う託送料金、DSO系統に接続する場合にDSOに支払う託送料金、需給調整などを担うための系統運用費用から構成されており、今回の議論は、TSOに支払う託送料金と系統運用費用の合算部分について論じる。
- Energinet、料金カタログ2027「Tarifkatalog 2027」(2026年9月)、4、9、13頁、2026年10月1日アクセス。
- 欧州代替燃料観測所(EAFO)、ニュース記事「Denmark’s EV Market Accelerates in 2025 — Momentum Points to Another Strong Year in 2026」(2026年2月3日)、2026年10月1日アクセス。
- Energinet、料金カタログ2026「Energinets tarifkatalog 2026」(2025年9月)、5~6、11頁、2026年10月1日アクセス。
- 欧州議会・EU理事会、電力域内市場に関する規則(EU)2019/943、第19条第2~5項、2024年7月16日付統合版、2026年10月1日アクセス。
- デンマーク・エネルギー庁(Energistyrelsen)、背景資料「Analyseforudsætninger til Energinet 2025 – Eltransmissionsforbindelser til udlandet (interkonnektorer)」(2025年9月24日)、2~4、8~10頁、2026年10月1日アクセス。
- バイキングリンク(Viking Link)は、2023年12月に最初の800 MWの運用を開始し、2024年には全容量の1.4 GWでの運用が開始された。
- Energinet、報告書「Electricity Market Report 2025」(2026年)、18頁、2026年10月1日アクセス。
- Energinet、報告書「Fremskrivning af Energinets eltariffer 2024–2026」(2023年9月)、8、10、15頁、2026年10月1日アクセス。
- 発電設備と需要設備の双方の接続待ちを含む。
- デンマーク会計検査院(Rigsrevisionen)、報告書「Energinets udbygning af elnettet」(2026年4月)、6頁、2026年10月5日アクセス。
- Energinet、ウェブページ「Vi kan ikke bygge os ud af 60 GW」、2026年10月1日アクセス。
- 国際エネルギー機関(IEA)、図表「Share of electricity in total final energy consumption and weighted average electricity/gas price ratio by country, 2025」(2026年6月5日更新)、2026年10月1日アクセス。
- HØST PtX Esbjerg/Copenhagen Infrastructure Partners「About the plant」。
- Everfuel「Everfuel’s project Frigg secures European Hydrogen Bank support for 200 MW green hydrogen production」(2026年5月29日)。
- Energinet、事業計画「Forretningsplan – Systemansvarlige aktiviteter 2025–2026」(2024年)、特に9~11、34頁、2026年10月1日アクセス。




