連載コラム 自然エネルギー活用レポート

小水力発電の投資回収を7年で可能に
―和歌山県・有田川町の町営事業―
No.1

2017年5月16日 石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 人口2万7000人の和歌山県有田川町(ありだがわちょう)では、県営のダムから放流する河川維持放流水を生かして小水力発電に取り組んでいる。2016年2月に「有田川町営二川(ふたがわ)小水力発電所」の運転を開始して、わずか7年で初期投資を回収する計画だ。総額で2億8600万円の事業費は町の資金でまかなった。年間の売電収入は約5000万円を見込み、役場の職員が発電所を運営して投資回収を早める。

安定した水量と30メートル以上の落差を生かす

 有田川町が運営する小水力発電所は、町役場から13キロメートルほど離れた「二川ダム」の直下にある。このダムは1967年に完成して、長年にわたり洪水対策と水力発電に使われてきた。ダムから下流7キロメートルのところに、関西電力(当初は和歌山県企業局)が運転する「岩倉発電所」がある。出力が1万1000kW(キロワット)に達する大規模な水力発電所とは別に、新たに町営の小水力発電所を建設して、自然エネルギーを生かした電力を供給できるようになった(写真1)。


写真1 「有田川町営二川小水力発電所」の全景

 小水力発電の水力には、ダムから下流に放流し続ける「河川維持放流」を利用する。今から20年近く前の1998年に、下流の自然環境を改善するために河川維持放流が始まった。それ以前はダムから岩倉発電所まで山中の導水路を通して大量の水を送るために、ダムに近い下流の水量が減って、周辺地域に悪臭が漂うほど川の環境が悪化してしまった。この問題を解消する対策として、ダムの堤体(水をせき止める壁)に穴を開けて、常に一定量の水を放流する河川維持放流を開始した(写真2)。


写真2 小水力発電に利用する河川維持放流水(発電所を運転していない状態)

 従来は放流するだけだったが、水量が安定しているうえに、ダムの堤体から30メートル以上の落差で水が流れている。それまでも太陽光発電や太陽熱を利用した給湯器の普及に積極的に取り組んできた有田川町役場では、河川維持放流水を生かした小水力発電所の建設を決断する。

 建設までには水利権の認可などいくつかの難題をクリアする必要があった。ようやく1年半の工事を経て2016年2月に運転を開始することができた。小水力発電所の建設にかかった総事業費は2億8600万円。町議会の承認を得て全額を町の予算から拠出した。

運転維持費を年間200万円以内に抑える

 発電規模は最大199kWで設計した。年間の発電量は当初120万kWh(キロワット時)を見込んだ。最初の1年間には想定を上回る136万kWhに達し、今後も同様の発電量を得られる見通しだ。発電した電力は固定価格買取制度を通じて関西電力に供給している。出力が200kW未満の小水力発電の買取価格は1kWhあたり34円(税抜き)で、20年間の買取が保証されている。年間の売電収入は約5000万円(税込み)になる。

 一方で発電所の運転維持費は年間で200万円以内に抑える計画である。総事業費の2億8600万円に毎年の運転維持費200万円を加えても、売電収入によって7年間で回収できる。一般的に小水力発電の投資回収には15年前後の長期間を必要とするが、有田川町の場合には半分程度の期間で済む。その理由はいくつか挙げられる。

 第1にダムから常に放流し続ける河川維持放流水を使うことによって、安定した水量と大きな落差で効率よく発電できるメリットがある。すでにダムには河川維持放流のための導水路が設けられていたため、発電設備を除いて建設・土木工事を必要とする部分が少なく、総事業費を抑えることができた。

 第2に発電所の運転を可能な限り自動化して、毎年の維持費を抑制した効果も大きい。発電所を運営する有田川町役場の環境衛生課では、執務室にあるパソコンを使って、運転状況や発電所の内外の様子を遠隔監視している。小水力発電に欠かせない水車発電機の点検清掃作業は6人の課員で分担する。このほかにもダムを運営する和歌山県の企業局と連携を図りながら、維持管理の手間やコストの削減に努めている。

 自然エネルギー財団では小水力発電の成功モデルとして、有田川町役場が取り組んだ実例をレポートにまとめた。発電所の設備構成や収支の状況に加えて、発電事業に着手するまでの経緯を詳しく解説している。

レポート全文 自然エネルギー活用レポート No.1
小水力発電の投資回収を7年で可能に
―和歌山県・有田川町の町営事業― (1.8MB)

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