「24/7カーボンフリー」の技術要件、RE100と根本的な違い原子力の持続可能性、バイオマスの有効性も論点に

石田 雅也 自然エネルギー財団 研究局長

2025年6月5日

 電力セクターの脱炭素化を推進する動きが世界各国で活発になっている。国際NGO(非政府組織)のClimate Groupは、CO2(二酸化炭素)を排出しないカーボンフリーの電力を毎日24時間にわたって使い続ける「24/7カーボンフリー」の取り組みを加速させる計画だ。電力を使用する企業が24/7カーボンフリーを実現させるための技術要件(Technical Criteria)を公表した(2025年5月29日付け)。

 一方でClimate Groupは国際イニシアティブの「RE100」を2014年に開始して、企業が自然エネルギー100%の電力を使って事業を運営する活動を主導してきた。これまでに400社以上の有力企業がRE100に加盟して、自然エネルギーによる電力の脱炭素化を推進中だ。24/7カーボンフリーとRE100ともに、「2040年までに全世界の電力セクターを脱炭素化する」ことを目標に掲げている。RE100では現実的な手法で目標達成を目指し、24/7カーボンフリーでは将来を見据えた先進的な手法で同じ目標の達成を目指す。このような時間軸に差があるため、両者の技術要件には根本的な違いがある。その点をふまえて、電力の脱炭素化に取り組む企業は今後の計画を検討・実行する必要がある。

RE100との違い(1):発電と消費の時間を一致

 24/7カーボンフリー(Climate Groupの24/7 Carbon-Free Coalition)の技術要件では、RE100と違う点が主に3つある(下の比較表を参  照)。第1に、電力の属性(発電方法など電力の特性を表す情報)を1時間単位で確認する必要がある。たとえば企業が太陽光発電の電力を調達して使用する場合には、1時間ごとの発電電力量と消費量を一致させる(あるいは発電電力量が消費量を上回る)ことが求められる。24/7カーボンフリーでは、1日24時間、週7日すべての時間帯でCO2を排出しない電力を使用することが条件になるため、太陽光以外の電力を組み合わせなければ実現できない。

 これに対してRE100では、発電と消費のタイミングを一致させる必要はなく、自然エネルギーの電力の調達量と消費量を年間で合わせればよい。その間に化石燃料で発電した電力を使用する時間帯もあるため、電力セクターの脱炭素化の点では不十分である。Googleなど大量の電力を消費する企業が気候変動の抑制に向けて、RE100の次に24/7カーボンフリーを推進する理由である。

表 24/7 Carbon-Free CoalitionとRE100の技術要件の主な違い

ENTSO-E:European Network of Transmission System Operators for Electricity
EU:European Union、EECS:European Energy Certificate System

 ただし1時間単位で発電と消費を一致させるためには、技術的な問題が残っている。電力の属性を証明する「証書」が対応できていない。世界の多くの国では、発電から消費までの流れを正確に確認できる証書の制度が普及しているが、発電したタイミングを時間単位で確認できる証書はほとんどない。短くても日単位の情報である。日本で標準的に使われている非化石証書には、発電した時間に関する情報はなく、証書を発行した年単位でしか確認できない。世界各国で1時間単位の発電に対応できる証書が普及するまでは、発電事業者と電力を使用する企業が発電データと消費データを個別に突き合わせて確認する必要がある。この方法では、証書のような信頼性を確保できない。

RE100との違い(2):電力市場の範囲を限定

 第2の違いは、電力を調達する市場の範囲をRE100よりも限定する点だ。24/7カーボンフリーでもRE100でも、電力を調達する市場の範囲は国単位が基本だが、市場が大きな国や地域に対しては要件に違いがある。24/7カーボンフリーでは、電力市場でゾーン別の料金を採用している場合には、国単位ではなくゾーン単位で電力を調達する必要がある。発電する場所と電力を消費する場所を同じ地域(ゾーン)に限定することで、地域単位で電力セクターの脱炭素化を実現していく狙いだ。企業が料金の安い地域から電力を調達する、あるいは発電コストが低い地域の発電設備と長期契約を締結して電力を調達する、といった状況が続くと、脱炭素化が進まない地域が出てきてしまう。

 RE100の技術要件では、電力系統が物理的に接続していて、電力市場の制度やルールが同じ国であれば、ひとつの市場とみなす。企業は広域で電力を調達することが可能だ。北米では米国とカナダを一体に、欧州ではEU(欧州連合)の加盟国で、欧州の証書システムであるEECSの参加国であれば一体に扱う。国や地域による価格・コストの差があるため、脱炭素の進み具合に影響を与える。

 これに対して24/7カーボンフリーでは、米国を例にとると、電力系統で細分化する。ニューヨーク、カリフォルニア、テキサスなど13の電力系統に分けて、その範囲内で電力を調達・使用することを求める。すべての電力系統を2040年までに脱炭素化するための方策である。米国ではテキサス州の風力発電のコストが相対的に低く、他の地域に事業拠点がある企業でもテキサス州の風力発電所と長期契約を締結する事例が数多く見られるが、そのような調達を認めない。日本でも電力系統(送電エリア)ごとの調達を求められる可能性がある。

RE100との違い(3):CO2排出量でエネルギー源を選定

 24/7カーボンフリーとRE100は電力セクターの脱炭素化を目指す点で方向性は同じだが、対象のエネルギー源には違いがある。24/7カーボンフリーではCO2排出量でエネルギー源を選定する。発電時にCO2を排出しない原子力を認める一方、CO2を排出するバイオマスは厳しく制限する方針だ。燃料になるバイオマスの生育から処理・輸送、さらに土地の利用形態を改変する影響まで含めて、ライフサイクル全体のCO2排出量を評価する。ライフサイクルCO2排出量がゼロ以下にならない場合には、全世界の火力発電のCO2排出量の平均と比べた削減率を算出して、その比率に相当する電力量の使用を認める。地熱についても地中から取り出した流体をすべて地中に戻すことが条件になる。流体に含まれる温室効果ガスを大気中に放出しないためである。RE100の技術要件では現在のところ、地熱の利用に特別の条件はない。水力とバイオマスは持続可能なものに限定している。原子力は自然エネルギーではないため除外する。

 両者が規定するエネルギー源の違いによって、企業が脱炭素に向けて電力を選択するうえで混乱を招く懸念がある。特に原子力の電力を調達すべきか、判断が分かれるところだ。24/7カーボンフリーの技術要件では、原子力の持続可能性と安全性に関して、企業による協力を推奨している。「原子力産業が持続可能性と安全性を継続的に改善できるように支援すること、その中には事業者と政府が取り組む燃料のサプライチェーンや廃棄物の処分に対する支援を含む」とある。さらに原子力に限らず、環境や社会的な持続可能性の観点から要件を見直す方針を掲げている。「特定の発電方法においては、電力を調達することによって、企業の社会的な評判(レピュテーション)に対するリスクとベネフィットがあり、その点を考慮する必要がある」と注意を促している。とりわけ原子力に関しては、廃棄物の処分に加えて、社会的な評判に対するリスクを想定すると、積極的に選択する企業が世界中にどれくらい存在するだろうか。

 原子力の持続可能性については、EUが2050年までにカーボンニュートラルを実現するための経済活動を規定した「タクソノミー」の中で、具体的な要件を示している。高レベルの放射性廃棄物の最終処分施設を2050年までに稼働させる具体的な計画があることで、現時点ではフィンランド、フランス、スウェーデンの3カ国だけが該当する。企業が24/7カーボンフリーを実現するために原子力を必要とするならば、それに先立って放射性廃棄物の最終処分施設の建設計画を各国の政府に求めるべきである。

 24/7カーボンフリーの技術要件は第1版を公表した段階で、今後2年間にわたって6カ月ごとに内容を見直す方針だ。特に重視する点は、温室効果ガスの算定・報告において実質的な国際標準になっている「GHGプロトコル」との整合性である。GHGプロトコルは改定作業が進められていて、2027年内に改定案をまとめる予定になっている。RE100の技術要件もGHGプロトコルに準拠する。GHGプロトコルの改定の内容によって、24/7カーボンフリーとRE100の技術要件の差は縮まることが想定される。「時間単位の一致」と「電力市場の範囲」に関しては、GHGプロトコルに合わせて両者ともに改定することになる。エネルギー源だけは違いが残る可能性が大きく、企業の判断に委ねられる。

 現状では、RE100の目標達成でさえ、途上にある企業が多い。さらに要件が厳しい24/7カーボンフリーに今すぐ取り組むことはむずかしい状況だ。おそらく2030年代に入ってからでないと、24/7カーボンフリーを目標に掲げる企業は増えてこないだろう。当面はRE100の技術要件に従って、持続可能な自然エネルギーの電力の調達を拡大させることが、世界中の電力セクターの脱炭素化を推進する効果的な対策である。24/7カーボンフリーの技術要件を適用する場合でも、その時点で締結済みの長期契約(コーポレートPPAなど)は例外措置を受けられる。
 

<公表資料>(Climate Group)24/7 Carbon-Free Electricity technical criteria and appendices(2025年5月29日)
<関連ウェブサイト>(同上) Climate Group 24/7 Carbon-Free Coalition
<関連資料>(同上)RE100 TECHNICAL CRITERIA(2025年3月24日)
<関連コラム>(自然エネルギー財団)
 RE100の次に「24/7カーボンフリー」へ:自然エネルギー中心に推進、原子力には放射性廃棄物の責任(2024年10月23日)
 RE100が技術要件を改定、石炭混焼を禁止:証書の償却確認も主要国を対象に徹底(2025年4月4日)

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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