先進企業の自然エネルギー利用計画(第17回)キリングループ、バイオ・水力・太陽光・風力を組み合わせ2050年に自然エネルギー100%を目指す

石田雅也 自然エネルギー財団 シニアマネージャー(ビジネス連携)

2020年5月14日

 ビールをはじめとする飲料事業に加えて医薬・バイオケミカル事業を拡大中のキリングループが、2050年に向けて全世界の事業で使用する電力を自然エネルギー100%で調達する方針を掲げた。電力だけではなく工場で大量に使う熱(蒸気)も自然エネルギーを利用する計画で、温室効果ガス(GHG)の排出量をネットゼロ(実質ゼロ)に削減することを目指す。
 
 ビールの製造工場では排水からバイオガスを生成して電力と熱を供給するほか、水力発電の電力を購入し、太陽光発電の電力を自家消費する。さらに太陽光発電や風力発電の電力で作った水素を燃料電池自動車と燃料電池フォークリフトで使い始めた。紅茶などの飲料や医薬品を製造するグループ会社の工場でも、水力発電の電力購入と太陽光発電の自家消費に取り組んでいる。

バイオガス発電で年間に約2000万kWhの電力を供給

 ビール工場ならではの自然エネルギーの利用方法が、バイオガスによる電力と熱の供給である。グループの中核会社の1つであるキリンビールでは、全国9カ所にある工場のうち7カ所に、ガスコージェネレーション(熱電併給)システムを導入している(写真1)。

写真1.ビール工場の電力と蒸気を供給するガスコージェネレーションシステム 出典:キリンホールディングス


 ビールの主な原料は麦芽(大麦)とホップで、ビールを製造した後の排水に微生物を加えて発酵させるとバイオガスを生成できる。工場内で生成したバイオガスを都市ガスと混焼して発電しながら、排熱を利用して蒸気も作り出す。電力と熱を供給できるコージェネレーションはエネルギーの利用効率が高く、加えてバイオガスによるGHG削減効果もある。7カ所の工場を合わせると、バイオガスによる発電量は年間に約2000万kWh(キロワット時)にのぼり、工場で使用する電力の2割程度をカバーできる。

 キリンビールの発祥の地でもある横浜工場(神奈川県)ではバイオガス発電のほかに、軽くて柔軟性がある薄膜太陽光パネルを建物の屋根や壁面に設置して効果を実証中だ。薄膜太陽光パネルは通常の太陽光パネルを設置できない場所でも導入できる利点がある。横浜工場の構内には水素ステーションもあり、薄膜太陽光パネルで発生させた電力から水素を作って燃料電池自動車に供給する(図1)。さらに工場内で運搬用に使うフォークリフトにも燃料電池タイプを導入した。フォークリフトの水素は横浜市内の風力発電所の電力で作った水素を利用している。自然エネルギー由来の水素を利用すれば、GHGを排出しないで自動車やフォークリフトを走らせることができる。
 

図1.キリンビール横浜工場のエネルギー供給体制。黄色が電力の流れ 出典:キリンホールディングス

水力発電の電力は夜間の使用量が多い工場に

 キリンビールでは購入する電力でも自然エネルギーを増やしている。2018年の時点で自然エネルギーの比率は29%で、さらに2030年に50%まで高める計画だ。主力工場の1つである取手工場(茨城県)では2017年4月から、電力の約75%に水力発電100%の「アクアプレミアム」を利用している(写真2)。

写真2.水力発電の電力を利用するキリンビール取手工場 出典:キリンホールディングス

 このほかに紅茶などを製造するキリンビバレッジや、医薬品を製造する協和発酵キリンの工場でも、アクアプレミアムによる水力発電の電力を使い始めた。キリングループ全体では、年間で5000万kWhを超える電力を水力発電で調達している。特に夜間の電力使用量が多い工場を対象に、日中と夜間を通じて固定の電力として利用する。
 
 グループ各社で自然エネルギーの利用量を増やす一方、ヒートポンプによる熱から電力への転換などを進めて、2030年までにGHG排出量を30%削減する(2015年比)計画である。その次のステップとして2050年にGHG排出量をネットゼロに削減するために、さまざまな方法を組み合わせて自然エネルギー100%へ近づけていく。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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