先進企業の自然エネルギー利用計画(第16回)東急、鉄道からホテルまで2050年にCO2ゼロ自然エネルギー100%で電車を走らせる

石田雅也 自然エネルギー財団 シニアマネージャー(ビジネス連携)

2020年2月18日

 大都市の中を分刻みで運行する鉄道は大量の電力を使用する。大手私鉄の東急は鉄道のほかにホテルやデパート、スーパーマーケットなどを展開している。グループ全体で使用する電力量は年間に10億kWh(キロワット時)近い規模に達する。この膨大な電力を2050年までに自然エネルギー100%に切り替えることを宣言した。
 
 その意気込みを具体的に示したプロジェクトが、東急の路線で唯一の路面電車である「東急世田谷線」を自然エネルギー100%で走らせることである。世田谷線は2両編成の電車で約5キロの距離を走行する。2019年3月25日から、使用する電力を自然エネルギー100%に切り替えた(写真1)。日中には6分間隔で運行する地域住民の生活に欠かせない電車が、年間を通してCO2(二酸化炭素)を排出しないで運行できるようになった。
 
写真1.自然エネルギー100%の電力で運行する「東急世田谷線」 出典:東急

東北の水力発電所と地熱発電所の電力を利用

 世田谷線が年間に使用する電力量は約216万kWhである。東急グループ全体の電力使用量のうち0.2%程度に過ぎないが、導入効果は大きかった。都市型の通勤電車では日本で初めて自然エネルギー100%で走る電車として、さまざまなメディアで取り上げられた。環境に配慮した取り組みは乗客の関心を呼び、東急の社員の意識を高めた。
 
 自然エネルギーの電力を供給するのは東北電力グループである。東北で運転中の水力発電所と地熱発電所の電力を提供する(図1)。東北電力は30分単位で、世田谷線が使用する電力量を上回る発電量を水力発電所と地熱発電所で保証する契約になっている。電気料金は従来の契約と比べて2割くらい高いが、東急にとってはCO2を排出しない効果があり、将来の炭素税による電力コストの増加を想定した対策として位置づける。

図1.世田谷線に自然エネルギー100%の電力を供給するスキーム 出典:東急

 東急と東北電力は2015年に共同出資で小売電気事業者の東急パワーサプライを設立して、首都圏の家庭や事業所に向けて電力を販売している。自然エネルギーの電力を利用したい企業のニーズが首都圏を中心に高まるなかで、東北に豊富にある自然エネルギーの電力を供給するスキームを両者で実現した。
 
 ただし当面は東急の他の路線に自然エネルギー100%の電力を年間にわたって供給することはむずかしい。現在のところ供給量の問題がある。東急は2050年までにCO2排出ゼロと自然エネルギー100%の目標を達成するために、2030年までは省エネによって電力使用量とCO2排出量の削減を推進していく。

渋谷駅の地下に滞留する電車の排熱を自然換気で

 電車の省エネ対策として新型車両を投入するほか、すべての駅でLED照明へ切り替えを進めている。さらに東急のメインターミナルである渋谷駅では、自然換気システムを取り入れて電力使用量の増加を抑えている。渋谷と横浜をつなぐ「東急東横線」を地下鉄の「東京メトロ副都心線」と直通させるため、2013年に渋谷駅を地上から地下に移した。
 
 数多くの電車が出入りする地下駅では、電車の排熱が滞留して温度が上昇してしまう。この問題を自然換気システムで解消した。駅周辺の再開発に合わせて複合商業施設の「渋谷ヒカリエ」を建設するにあたり、駅の地下化に備えて開口を設けた。電車から排出する熱い空気を上昇させて開口から放出する一方、冷たい外気を取り入れて地下に送り込む仕組みだ(図2)。排熱の対策として大型の空調機を使わずに済み、電力使用量とCO2排出量の増加を抑制できた。

図2.渋谷駅に導入した自然換気システム(左)、駅の開口を設けた「渋谷ヒカリエ」(右) 出典:東急

 このほかにグループ会社が運営するホテルでは、使用済みのプラスチックから生成した水素を購入して電力と温水を供給する実証にも取り組んでいる。先進的なプロジェクトを相次いで実践している東急の自然エネルギー100%に向けた活動をレポートにまとめた。



 

外部リンク

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