先進企業の自然エネルギー利用計画(第15回)積水ハウス、2040年までに自然エネルギー100%ゼロエネルギー住宅の余剰電力を購入

石田雅也 自然エネルギー財団 シニアマネージャー(ビジネス連携)

2020年1月16日

 断熱効果や太陽光発電などを組み合わせてエネルギーの使用量を実質的にゼロにする「ゼロエネルギー住宅(ZEH)」が全国各地に広がってきた。積水ハウスはZEHの販売棟数で業界のトップを走る(写真1)。これまでに販売した戸建住宅のうち、太陽光パネルを搭載した住宅は2019年3月末の時点で11万棟を超えた。その余剰電力を買い取って、積水ハウスグループのオフィスや工場で使用する電力を2040年までに自然エネルギー100%に切り替える計画だ。想定どおりに買取量を増やしていけば、前倒しで目標を達成できる見通しである。
 

写真1.太陽光パネルを搭載したゼロエネルギー住宅のモデルハウス 出典:積水ハウス

卒FITの電力を11円で買い取ってもコストは増えない

 固定価格買取制度(FIT)の対象になっている住宅用の太陽光発電は、買取期間が10年で終わる。FITよりも前に2009年11月に始まった住宅用太陽光の買取制度から移行した場合には、2019年11月から買取期間を終了する太陽光発電設備が出てくる。いわゆる“卒FIT”である。積水ハウスが販売した住宅の太陽光発電設備でも卒FITがどんどん増えていく。卒FITになると、従来のように高い買取価格で売電できなくなるが、FITの賦課金の対象ではなくなるため、CO2(二酸化炭素)を排出しない自然エネルギーの電力として利用できる。

 積水ハウスは卒FITになった太陽光発電の余剰電力を地域の電力会社(旧・一般電気事業者)よりも高い価格で買い取り、オフィスや工場、展示場、住宅の施工現場などで自然エネルギーの電力として利用する(図1)。グループ全体の電力使用量は省エネの取り組みによって減ってきたが、それでも1億kWh(キロワット時)を超えている。一方で積水ハウスが2018年度までに販売した太陽光発電設備は累計で70万kW(キロワット)に達して、年間の発電量は約7億kWhにのぼる。このうち卒FITになる発電設備の3割程度から余剰電力を買い取れば、グループ全体の電力使用量を上回って自然エネルギー100%の目標を達成できる見込みだ。

図1.卒FITの太陽光発電の余剰電力を買い取って利用する仕組み GWh:ギガワット時(=100万キロワット時) 出典:積水ハウス

 卒FITの電力は各地域の電力会社が通常1kWhあたり7~9円で買い取る。積水ハウスは11円で買い取ってオフィスや工場で利用するが、それでも従来の電気料金と変わらない方法を工夫した。東日本の3地域と西日本の6地域(沖縄県を除く)の2つに分けて、それぞれ大手の小売電気事業者に一括して電力の買取と供給を任せる。小売電気事業者は広い地域を対象に積水ハウスグループと長期の契約を結んで大量の電力を販売できるため、卒FITの電力の買取価格が高くても採算がとれる。積水ハウスは電力の調達コストを増やすことなく、自然エネルギーの電力を購入してCO2排出量を削減できる仕組みだ。さらに住宅の購入者の売電収入を通常よりも増やして、顧客の満足度を高めることができる。

ゼロエネルギー住宅が売上増加とCO2削減を両立

 自然エネルギーを利用してCO2を削減しながら、その効果で売上高と利益を増やす。事業の成長とCO2の削減を両立させるデカップリングの実例を積水ハウスの住宅事業に見ることができる。積水ハウスが太陽光パネルを搭載した環境配慮住宅の販売を開始したのは2009年のことで、世界経済をリーマンショックが襲った翌年である。その年に387億円にのぼる赤字を計上したが、翌年には黒字に回復して、それ以降は営業利益率が着実に上昇している(図2)。
 
図2.積水ハウスが販売する戸建住宅の平均単価・CO2削減率・顧客満足率、会社全体の営業利益率 出典:積水ハウス

 好調な業績を続けている要因の1つは、販売する戸建住宅の平均単価が年々高くなっていることにある。積水ハウスが2018年度に販売した新築の戸建住宅のうち、ゼロエネルギー住宅(ZEH)の比率は79%に達した。断熱などの省エネと太陽光発電による創エネの機能を備えたZEHは購入時の価格が高くても、光熱費を低く抑えることができる。同時に住宅から排出するCO2を大幅に削減できる。気候変動の原因になるCO2を減らして社会に貢献するとともに、顧客と積水ハウスにもメリットがある。脱炭素と事業成長の好循環を生み出している。

 積水ハウスは戸建住宅に続いて賃貸住宅や分譲マンションでも、太陽光発電を取り入れたZEH仕様の物件を拡大中だ。将来は卒FITで買い取った電力がグループ全体の使用量を上回ることも想定されるため、余った電力を住宅向けに供給するほか、住宅の原材料を生産するメーカーにも販売して、サプライチェーン全体でCO2排出量を削減する構想を描く。事業における効果が明確に見える積水ハウスの自然エネルギー利用計画をレポートにまとめた。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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