国際送電がエネルギー危機を救う

ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 上級研究員

2023年1月19日

in English

 国境を越えて電力を供給する国際送電は、脱炭素とエネルギー安全保障の両面で重要な手段になる。アフリカ、アジア・太平洋、欧州、北米など、世界各地で新しい国際送電の開発プロジェクトが活発だ。すでに稼働中のプロジェクトは昨今のエネルギー危機の混乱の中で大きな効果を発揮している。特に干ばつに見舞われて水力発電が低下したノルウェーや、原子力発電の運転停止で電力供給量が大幅に減少したフランスにおいて、その効果は大きい。日本と韓国のように、現在は送電網が孤立している国々においても、国際送電を実現することによって、自然エネルギーの電力を取引できるなどの便益が期待できる。

世界各地で活発になる国際送電プロジェクト

 現在開発が進んでいる新しい国際送電プロジェクトのうち、注目すべき計画を5つ挙げておきたい。

 1つ目はカナダのケベック州と米国のニューヨーク州を結ぶ「Champlain Hudson Power Express」で、2022年11月に建設開始が発表された 1。容量が1.25 GW(ギガワット=100万キロワット) の送電線を約550km(キロメートル)にわたって敷設する。カナダの水力発電による安価な電力をニューヨーク州に供給して、同州が2030年までに自然エネルギーの電力比率を70%に高める目標の達成に貢献する。2026年に全面稼働する予定である。

 2つ目の国際送電プロジェクトは「Central Asia-South Asia interconnection project (CASA-1000)」である。キルギスタンとタジキスタンの水力発電による電力をアフガニスタンとパキスタンまで、1387kmの距離を1.3GWの送電線で供給する(図1)。この計画も順調に進んでいる。2022年10月の時点で、全体の53%にあたる4264基の送電塔の建設を完了した。

図1: CASA-1000プロジェクト

出典:CASA-1000, What is CASA-1000?  (2022年12月22日時点)

 3つ目のプロジェクトはオーストラリアとシンガポールを結ぶ「Australia-Asia PowerLink」。オーストラリア政府が2022年6月に投資計画を発表した(図2)2 。送電線の容量は2GWで、海底ケーブルの距離は4200kmに及ぶ3。この計画に合わせて、オーストラリア国内に17~20GWの太陽光発電設備と36~42GWh(ギガワット時)の蓄電設備を建設する計画だ。相手国のシンガポール政府も自然エネルギーの電力の輸入を望んでいるが、現時点ではプロジェクトを承認していない。オーストラリア側の計画では、2024年に建設を開始して、2029年までに全面稼働する予定である。

図2:Australia-Asia PowerLinkプロジェクト

出典:Sun Cable, Sun Cable’s Flagship Project: The Australia-Asia PowerLink (2023年1月10日時点)

 4つ目のプロジェクトはギリシャとエジプトを結ぶ「GREGY」である。2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催したCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)で公表された4。両国のあいだに広がる地中海に、容量3GWの海底ケーブルを950kmにわたって敷設する。さらに国際送電に合わせて、エジプト国内に9.5GWの自然エネルギー発電設備を建設する計画だ。  

 5つ目は既設の国際送電設備を利用したプロジェクトで、ラオスとシンガポールのあいだで国境を越えた自然エネルギーの電力購入契約(PPA:Power Purchase Agreement)が2022年6月に結ばれた。この契約に基づいて、ラオスは水力発電による100MW(メガワット=1000キロワット)の電力をタイとマレーシアを経由してシンガポールまで送電する5

 このほかにも、まだ明確な成果は見えていないものの、注目すべき国際送電プロジェクトが2つある。インドと英国が2021年に開始した「Green Grids Initiative – One Sun, One World, One Grid」と、中国が2016年に開始した「Global Energy Interconnection Development and Cooperation Organization」である。いまや世界各地で国際送電の戦略的な重要性が高まっている。

ノルウェーと英国で活発な双方向の電力取引

 欧州では大陸全体で電力を効率的に活用するために、国際間の電力取引が定着している。ノルウェーと英国を結ぶ新しい国際送電プロジェクトを例にとって状況を見てみる。

 ノルウェーは安価な水力発電を生かして、長年にわたって他国に電力を輸出してきた。一方の英国はガス火力、自然エネルギー(主に風力)、原子力を主体に国内の電力を供給しているが、供給量が不足することが多く、輸入に頼っている(図3)。
 

図3:ノルウェーと英国の発電電力量と電源構成(2021年)
注:その他には自然エネルギーではない廃棄物および種別不明を含む。
英国の水力には少量の潮流発電を含む。
出典:International Energy Agency, Energy Statistics Data Browser: Norway Electricity 2021, United Kingdom Electricity 2021 (2022年12月15日時点)

 2021年10月に、ノルウェーと英国のあいだを結ぶ世界最長の海底ケーブルによる国際送電設備「North Sea Link」が稼働を開始した。総距離は720 km、水深は最大700メートル、容量は1.4GWで、投資額は16億ユーロ(約2200億円)にのぼる6。North Sea Linkは過去11年間に実施した欧州大陸と英国を海底ケーブルで接続する4つの国際送電プロジェクトのうち最も新しい(図4)。さらに2023年内にはデンマークと英国を結ぶ「Viking Link」(総距離760km、容量1.4GW)も稼働する計画だ。海底ケーブルによる国際送電を意欲的に拡大している英国の事例は、日本のような他の島国も参考にすべきである。

図4:欧州大陸と英国を結ぶ海底送電プロジェクト

注:国名などの情報を自然エネルギー財団が追加。
出典:National Grid, Interconnectors (2022年12月20日時点)

 North Sea Linkはノルウェーと英国の電力システムの特性をもとに、ノルウェーから英国へ電力を輸出することが想定されていた。ところが2022年にノルウェーで予期せぬ干ばつが起こり、ノルウェーの電力取引価格が英国を上回ることもあった(図5)。
 

図5:ノルウェーと英国の電力取引価格(2022年)
注:ノルウェー(NO2)は英国と接続している唯一の入札対象ゾーン。
1ポンド(£)=1.173ユーロ(€)で換算。
出典:EPEX SPOT, Monthly Power Trading Results (February 2022-January 2023).

 実際にノルウェーが逆に英国から電力を輸入する状況が多くの時間帯で発生した(図6)。国際送電によって双方向の電力取引が活発だったことがわかる。直近で入手可能な2022年12月の両国間の電力輸出入のデータを見ると、月間の合計ではノルウェーからの輸出量がわずか2.7TWh(テラワット時=10億キロワット時)にとどまっている。理論上は最大で約11.9TWhの電力を輸出できることになっている。このように国際送電は状況の変化に応じて、双方の国に便益をもたらす。
 

図6:ノルウェーから英国への電力輸出入(2022年12月)
出典:National Grid Electricity System Operator, Historic Demand Data 2022 (2023年1月11日時点)

フランスで電力の輸入が輸出を上回る

 1981年から2021年まで、フランスは40年間にわたって電力を輸出し続けてきた。電力の輸出量は世界最大で、第2位のカナダを明らかに上回っていた。そのフランスが2022年に合計で14TWhを超える電力の輸入国になったことは大きな驚きである(図7)。
 

図7:フランスの電力輸出入量の推移(プラスは輸入)
出典:1980-2021, United States Energy Information Administration, International Data: Electricity Net Imports,
2022, Réseau de Transport d'Électricité, Download eCO2mix Indicators (2023年1月11日時点)

 これはフランスの原子力発電(合計56基、設備容量61.37GW)の供給力が低下したことによるものだ。1年間に多数の原子炉が運転を停止した影響である。さまざまな技術的な問題が運転停止を引き起こしたが、特に重要な点が2つある。1つ目の問題は「Grand Carénage(大改修)」と呼ぶ、2014年から2025年にかけて原子炉の安全性強化と運転期間延長を目的として実施しているプログラムである。もう1つの問題は、いくつかの原子炉で経年劣化による配管の破損が見つかり、検査と修復のために運転停止が重なったことだ7

 2022年には、フランス全体の原子力発電の設備容量に対して、合計した出力が50%以下になる時間帯が年間の62%に達した(図8)。
 

図8:フランスの原子力発電の設備容量と実出力(2022年)
出典:Réseau de Transport d'Électricité, Download eCO2mix Indicators (2023年1月11日時点)

 このような供給力の不足をカバーするために、フランスは他国から電力を大量に輸入した。相手国の電力取引価格はフランス国内の価格よりも低い場合が多かった(図9)。
 

図9:フランスと近隣国の電力取引市場の平均価格(2022年)
注:イタリア(北)はフランスと接続している唯一の入札対象ゾーン。
英国のデータは入手できず。
出典:European Network of Transmission System Operators for Electricity, Transparency Platform: Day-Ahead Prices (203年1月11日時点)

 フランスが輸入する電力の中には、英仏海峡トンネルに敷設した容量1GWの「ElecLink」(2022年5月に稼働開始)を経由して英国から送られてくるものが大量にある8。さらにフランスはアイルランドと結ぶ「Celtic Interconnector」の建設に技術・資金の両面で合意した9。このプロジェクトは容量0.7 GWで575kmの長距離ケーブル(主に海底)を敷設して2国間を接続する。事業費は16億ユーロ(約2200億円)を見込み、2026年までに稼働する計画だ。

日本と韓国を結ぶ国際送電の可能性

 北東アジアにおいても、国際送電がもたらす便益は経済性、環境面、さらにエネルギー安全保障の点で同様に期待できる。特に日本と韓国は大規模な電力システムが孤立していて、自然エネルギーの発電量が十分ではないにもかかわらず、出力抑制によって損失している場合がある。それでも両国は国際送電の便益を活用することなく、個別に取り組みを進めている。

 自然エネルギー財団が送電網やエネルギー政策などの専門家で構成する「アジア国際送電網研究会」の成果を2018年6月にレポートで発表している。それによると、日本と韓国のあいだには3つの国際送電ルートが想定できる(図10)。
 

図10:日本と韓国の国際送電ルート
出典:自然エネルギー財団、アジア国際送電網研究会第2次報告書(2018年6月)

 3つの中で距離が最も短いのは、韓国のプサンと日本の伊万里を結ぶルートで、わずか226kmの海底ケーブルで実現できる。ノルウェーと英国を結ぶNorth Sea Linkと比べて3分の1以下の距離である。さらに水深は最大120メートルで、North Sea Linkの約6分の1に過ぎない。九州と韓国をつなぐ国際送電プロジェクトは、技術的に実現できる。建設費は推定で1290億円である(国内の送電網の強化を除く)。

 経済性と環境面を考えると、九州と韓国の1時間あたりの電力取引価格に大きな差があることも重要な点だ。しかも九州では太陽光と風力の出力抑制が実施されている。1時間あたりの電力取引価格に差があることは、経済性の面から重要な前提条件になる。2022年の電力取引市場の価格を見ると、九州の価格が韓国の価格よりも低い時間帯が1年間のうち68%を占めている(図11)。
 

図11:九州と韓国の電力取引市場の価格差(2022年)
注:1ウォン = ‎0.102円
出典:九州のデータ Japan Electric Power Exchange, Spot Market Trading Results: Fiscal Years 2021-2022
韓国のデータ Electric Power Statistics Information System, System Marginal Price: Hourly 2022 (2023年1月11日時点)

 このような価格差は電力システムの構造の違いによるところが大きい。九州の電力供給は高価格な化石燃料(石炭、ガス、石油)に依存する割合が韓国よりも低い。九州では太陽光発電が多く、需要よりも供給量が上回ることが多い(中国エリアに電力を輸出)。一方で韓国の電力システムには、そのような特徴はない。

 九州における太陽光と風力の出力抑制は、経済的にも環境面でも損失である(図12)。日本では原子力の電力を優先して供給する不合理なルールが設けられている。原子力発電所の出力を柔軟に調整できず、太陽光と風力の出力抑制が増加する。
 

図12:九州の出力抑制
注:2022年に出力抑制が減少した主な要因は玄海原子力発電所3・4号機と川内原子力発電所2号機の運転停止。
出典:自然エネルギー財団, 電力需給・系統情報:九州2018-2022 (2023年1月11日時点)

 もし九州と韓国のあいだに送電線があれば、この問題は緩和できるはずだ。自然エネルギーの電力を100%使用することを宣言している韓国の企業にとっても、目標を達成しやすくなる。国際エネルギー機関によれば、韓国の自然エネルギー電力の比率は2021年の時点で6.9%に過ぎない。日本の21.7%と比べて3分の1以下である10

 先ごろ2022年のサッカーワールドカップがカタールで開催された。20年前の2002年に、日本と韓国が共同開催でワールドカップを成功させたことは、今なお記憶に残っている。その後の20年間で、両国の協力関係がサッカーからエネルギーの領域に広がらなかったことは残念だ。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

当サイトではCookieを使用しています。当サイトを利用することにより、ご利用者はCookieの使用に同意することになります。

同意する