洋上風力、新しい公募占用指針案の課題先が見える公募手続の必要性

工藤 美香 自然エネルギー財団 上級研究員

2022年12月19日

 

はじめに

 2022年9月30日、国は新たに3海域(秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖、新潟県村上市及び胎内市沖、長崎県西海市江島沖)を洋上風力導入の促進区域に指定した。再エネ海域利用法に基づく2回目の事業者選定(ラウンド2)は、2021年に指定された秋田県八峰町及び能代市沖を含む4海域(約1.8GW)が対象である。

 洋上風力の着実な導入とコストダウンを進めるためには、透明で公正な競争環境が不可欠だ1。透明性を確保するには、基準の明確性や評価の予見可能性、選定の基盤となる情報の共有が必要である。また、選定手続が公正に行われたことを示すため、適切な選定結果の公表も重要である。これらは、公募に参加する開発事業者のみならず、サプライチェーンや地域など利害関係者に洋上風力の導入の道筋を示すためにも、また国が政策を進める説明責任を果たす上でも、必要不可欠である。

 市場づくりの要となる事業者選定の基準(公募占用指針)は、ラウンド1の事業者選定結果を受けて改定の議論が行われ、2022年11月、新しい指針案が公表された。

新しい公募占用指針案の概要

 新しい指針案では、従来どおり「価格」と「事業実現性」を1:1で評価する(各120点満点)が、今回「事業実現性」の評価内容が変更された(図1)。まず、事業計画の迅速性や電力供給の安定性(サプライチェーンの構築を含む)の配点が高く設定された。迅速性については、運転開始時期に応じた段階的な配点が示される(表)。また、各評価項目に5段階(「トップランナー」から「最低限必要なレベル」まで)の評価区分を設け、それぞれの得点獲得に必要な事項が具体的に記載された。地域との調整や地域経済波及効果については、都道府県知事の評価が最大限尊重される。
 


(図1)新しい公募占用指針案の評価基準の基本的考え方 
(出典)経済産業省資源エネルギー庁・国土交通省港湾局
 
(表)秋田県八峰町及び能代市沖、秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖での運転開始時期の評価基準案 
(出典)経済産業省・国土交通省

課題:複雑な評価が予見可能性を低下させる

 他方、本指針案は、さまざまな評価項目が盛り込まれた結果、評価過程が非常に複雑となった。
要因の一つは、事業計画の迅速性評価である。迅速性は評価しつつも、実現性のない不当に早い運転開始時期を提案した事業者が高得点を獲得しないよう、事業計画の基盤面や実行面の評価点を加味して得点を調整する。
また、複数の促進区域でそれぞれ最高点を獲得した計画が、同じ港湾を同じ時期に利用する可能性が発生した場合には、事業者による計画の出し直しを含む評価の調整が行われる。

 さらに、同一事業者の落札容量制限も、複雑化の要因となっている。1GWを大きく超える公募が同時に行われる場合、同一事業者の落札容量は1GWに制限される。そのため、一つの事業者が1GWを超える案件で最高点を獲得すると、案件の容量や他の事業者との点差などを考慮して、落札者が決定される(図2)。


(図2)複数区域同時公募時の落札制限のイメージ
(出典)経済産業省資源エネルギー庁・国土交通省港湾局

 そのほか、事業実現性の評価点は、各促進区域で必ず満点者が出るよう、最高点を獲得した入札事業者の点が120点満点になるように換算処理される 。つまり、ある入札者の評価点は、他の入札者の得点に左右される。

 このように、本指針案では、各評価点の積み上げだけでなく、他の事業者や他の促進区域の入札状況を考慮し、さまざまな調整を経て選定が行われる。そのため、市場参加者にとっては、入札時に考慮すべき事項が多く、複雑で、入札結果の予測が相当難しい。そもそも、事業実現性評価の項目の多くが定性的評価であり評価基準の明確性に限界があるにもかかわらず、さらに手続を複雑化させ、予見可能性が後退する結果となっている。

改善に向けて:国が一層のイニシアティブ発揮を


 事業者が複雑な入札手続を分析し、選定に向けた戦略を練る代わりに、着実なコストダウンと安定した発電事業の実現という本来事業に注力できるよう、また、多くの事業者や利害関係者にとってわかりやすい手続とするには、よりシンプルな評価基準を目指す必要がある。

 まず、事業者間で競わせる代わりに、国が具体的で明確な条件を提示する項目を増やすべきである。例えば、運転開始時期は、国が希望時期を入札条件として提示する。国が責任をもって港湾の整備状況を勘案して時期を設定することで、港湾の重複利用可能性が評価に及ぼす影響も避けられる。これを実現するためにも、国は、系統や港湾の整備計画を含む具体的なロードマップの策定を急ぐべきである。

 同様に、「事業開始までの事業計画」で評価される「調整力の確保や系統混雑の緩和に資する」提案も、事業者間で競わせるべきではない。そもそも、こうした系統運用の課題は送電事業者が責任を負うもので、発電事業者に競わせることは適切ではない。国はむしろ、発電事業者が経済合理的な行動により系統運用に貢献する市場を早急に整備し、示すべきである2

 また、1GWの落札制限は、評価の複雑化を避けるのみならず、日本国内に大きな市場を形成してコストダウンを進める上でも、また世界の中の日本市場に投資を呼び込むためにも、廃止すべきである。

 国のイニシアティブは、情報の提供でも求められる。選定の基盤となる地盤や気象海象、環境影響評価、漁業影響評価などの情報は、未だ十分に提供されていない。国による実証事業も行われているが、公正な入札に必要な情報が収集され、公開されなければならない。地域との共生を進めるための対話や調整も、事業者主導が当たり前の現状から、国が地方公共団体と協働して進める体制を作ることが必要である 3

 また、公募占用計画の審査では、事業者から国・地方公共団体のレベルまで、大量の書類を扱うため、その事務処理手続も莫大なものになる。デジタル化されたデータを活用し、関係者による無用な作業を極力排して、時間を有効活用する工夫も重要である。

おわりに

 新たな指針案の下でラウンド2の入札が行われ、日本の洋上風力市場はまた次のフェーズへと進む。さらなる導入拡大・加速化のため、透明性・予見可能性の高い事業者選定手続を実現すること、そのためにも、国が、港湾や系統の整備、地域との共生、区域指定にイニシアティブを発揮し、具体的なロードマップを策定して早期に国内外に示すことが、今求められている。
 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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