新型コロナウイルス:バイオエネルギーセクターへの影響と将来の見通し

バラドゥワジ・クマムル、クリスチャン・ラコス 世界バイオエネルギー協会(WBA)

2020年7月28日

in English

 新型コロナウイルスのパンデミックは、世界中に甚大な影響を与えた。数ヶ月の間に、1,000万人以上の人がウイルスに感染し、全世界で50万人以上の方が亡くなった1。ウイルスの急速な拡大により、世界各国の政府は、国もしくは地域レベルでのロックダウンや国際的な往来の禁止、社会的距離の確保を含む、ウイルス拡散を阻止するための厳しい措置を講じることになった。

 継続的な措置は、経済にも影響を与えた。世界は大恐慌以来最悪の不況に直面しており、2019年の経済成長率が2.9%だったのに対して、2020年はマイナス4.9%と予測されている2。経済の減速は、米国だけで4,000万人以上が失業申請をする3など、世界で何百万人分もの失業に繋がっている。

 ロックダウンは、全世界のエネルギー需要を18〜25%減少4させ、エネルギー部門全体にも大きな影響を与えている。主要国の工業生産が停止され、人々の移動が制限されたことで、輸送用燃料は近年で最大の減少となった。世界のCO2排出量は8%減ると予測されており5、人類史上最大の年間減少率となり、2010年レベルに戻るだろう。

 バイオエネルギーは、世界最大の自然エネルギー源である。2017年には、バイオ燃料と廃棄物は、世界のすべてのエネルギー源の9.5%のシェアを占め、自然エネルギー源の2/3以上を供給している。バイオエネルギーは、さまざまな原材料、生産経路、最終用途を持つ、汎用性の高いエネルギー源である。エネルギー用バイオマスの大部分は林業部門(85%以上)由来で、伐採や加工からの残材が利用されている。

新型コロナウイルスとバイオエネルギー

今回のパンデミックは、バイオエネルギー業界にも甚大な影響を与えた。世界バイオエネルギー協会(WBA)は、2020年5月に「新型コロナウイルスと世界のバイオエネルギー業界に与える影響」というアンケート調査6を実施し、バイオエネルギー関係者に、投資、収入、生産、雇用に与える影響について回答してもらった。主な回答者は、バイオエネルギー機器(ボイラー、ペレットミル等)の製造事業者、固体バイオマス燃料(ペレット、木質チップ等)生産事業者、エネルギー(電気・熱)、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオガスの生産者などである。

 全般的に、回答者の52%がパンデミックによるバイオエネルギー事業への影響は中程度から甚大で、そのうち12%が深刻な影響があると回答している。生産面について、40%以上が機器や燃料の生産に大きな影響がある見込みと回答した。財務面では、回答者の44%が、収入の大幅な減少、キャッシュ・フローの管理が困難な状況にある、あるいは今後そうなるだろう、と答えている。また、一部の回答者からは、契約書に不可抗力を挙げている顧客からの支払いが滞っており、将来のプロジェクトのための開発資金に懸念が生じているとしたものもあった。

 バイオエネルギー部門に期待される投資については、回答者の38%以上が、不確実性のために新規投資の意思決定が遅れていることを主因とし、新規投資の減少や中止が示唆された。最後に、パンデミックによる雇用への影響については、回答者の22%が、解雇を予定しておらず、新規雇用の機会もあるとしており、極めて小さいと答えている。

 
新型コロナウィルスのバイオエネルギーへの影響


 全体として、最も深刻な影響を受けたのは液体バイオ燃料部門である。原油価格の低迷により、バイオ燃料の従来型化石燃料との競争力が低減している。一部の生産者は、手指消毒剤などの生活必需品に生産を変更する柔軟性を発揮しているが、輸送燃料需要の世界的な大幅減少により、バイオ燃料生産者は、工場の閉鎖や生産量の削減につながる苦境に陥っている7

 一方で、固体バイオマス部門は、回復力を見せている。固体バイオ燃料(木質ペレットなど)の生産者のほとんどは、大きな制約がなかったため、生産量に大きな変化もなく継続している。例えば、産業用ペレットの生産者は、顧客との長期買取契約の恩恵を受けている8。この産業の原材料調達のほとんどが、国や地域の制限により影響を受ける林業の伐採や加工残材に依存しており、この部門の重要な課題となっている9。バイオマスならびにバイオガスからの電気と熱の生産者も、最終消費者の需要に応じて負荷制御可能な再生可能エネルギーを提供できるというバイオエネルギーの利点を活かして、回復力を発揮し生産を継続している。

WBAのメッセージ:新型コロナウイルスからの回復にむけて

世界中の政府が、エネルギーの生産と消費方法を大きく変える機会を手にしている。民間部門は、短期的にも長期的にも、クリーンかつグリーンな経済に向けて舵をきる政治的な決断を期待している。WBAは、世界中の政策立案者へのメッセージとして、5つの主要なテーマを提案する。


1.「エッセンシャルサービス」としてのバイオエネルギー
現在の危機的な状況において、バイオエネルギーは、電力、熱、運輸燃料のすべての最終消費部門のために、必要とされる需要に応じたクリーンなエネルギーを供給してきた。政策立案者はバイオエネルギーの重要な役割を認識し、危機的な状況下だけでなく今後も一般的なルールとして、バイオエネルギーのサプライチェーンをエッセンシャルサービスとして優先し分類するようにすることが必須である。
 
2.  バイオエネルギーの未来
EUなど一部の国ではパンデミックの影響が縮小しているが、米国やインドなどその他の地域では減速する兆しがない。不確実な時期であり、政府の役割は以前にまして重要なものとなっている。排出量の削減、化石燃料の使用量の削減、雇用の創出、地域の経済を発展させるために、投資家と世界のバイオエネルギー業界による、バイオエネルギーと再生可能エネルギー技術への支援を確実なものとする必要がある。各国政府は、パリ協定に沿った目標(例:2050年までにカーボンニュートラルを実現すること)を公表し、再生可能エネルギーこそが未来であることを確実にしなければならない。
 
3.   化石燃料開発を抑制する
現在のエネルギーと気候の状況は、政策立案者に対して、化石燃料開発を抑制し、バイオエネルギーと再生可能エネルギー技術が競争するための平等な場を提供する絶好の機会をもたらしている。今の原油価格の低さは、化石燃料への補助金を段階的に削減または廃止し、炭素価格を導入するための絶好の機会である。さらに、各国は、すべての最終消費部門で化石燃料利用を段階的に廃止するという、透明で野心的、かつ検証可能な目標を設定による化石燃料利用からの出口戦略を立てるべきである。
 
4.   バイオエネルギーによるより良い再建
世界中の国々が、パンデミックから回復するために、地域と企業に対して何十億ドルもの支援を行う復興パッケージを作成し実施している。このような復興パッケージは、持続可能であり、バイオエネルギーを主要な柱の一つと据えることが重要である。
 
5.   野心と行動の時
2020年は、パリ協定にしたがって、各国がそれぞれの削減貢献量を積み増す野心的な年となるはずであった。さらには、「Fridays for Future(未来のための金曜日)」などにみられる、変革に向けた幅広い支持は、市民社会が研究コミュニティと共に、政府にさらなる野心と行動を促している証しである。今こそ各国政府は、気候変動対策を遅らせることなく、野心的で安定した長期的なバイオエネルギー政策を発表し、その実施を支援する時である。
 
 
世界バイオエネルギー協会について

世界バイオエネルギー協会(WBA)は、世界中で、バイオマスのエネルギー利用発展を促進するためのグローバルな組織である。会員は、バイオマスからバイオエネルギーまでの全ての部門とサプライチェーンの代表者で構成されている。2008年の設立以来、バイオエネルギーの情報と発展の最先端を世界中に届けるために、数多くのファクトシート、統計レポート、ミッションレポート、ポジションペーパーなどを発行している。

バイオエネルギーの発展のために、数多くのワークショップ、セミナー、記者会見などを開催している。WBAはIRENA、REN21、GCF、Go100%REなど、さまざまな特長をもった組織と国際的に協力している。

<参考リンク> 自然エネルギー財団がWBAと開催した国際シンポジウム
世界の取組から学ぶバイオエネルギーの基本原則:バイオエネルギー国際シンポジウム報告(2017年6月8日)
【東京】脱炭素経済に向かうバイオエネルギー戦略スウェーデン・世界の最新動向に学ぶ(2017年5月22日)
【長野】木質バイオマスによる地域エネルギーシステムの転換 世界の経験を日本で活かす(2017年5月24日)
 
バイオエネルギー部門について

バイオエネルギーは、全世界で最大の自然エネルギー源である。2017年に、バイオ燃料と廃棄物は全世界の総エネルギー源の9.5%のシェアを占め、自然エネルギー源の2/3以上を供給している。バイオエネルギーは、さまざまな原材料、生産経路、最終用途を持つ、汎用性の高いエネルギー源である。エネルギー用バイオマスの大部分は林業部門(85%以上)由来のもので、伐採や加工からの残材が利用されている。農業も重要な役割を果たしており、多年性の穀物や、サトウキビやトウモロコシなどを交通用の液体燃料に転換したり、農業・畜産残渣を熱・電気のためのバイオガスに加工している。近年は技術の進展により、都市ごみのエネルギー利用も進んでいる。

バイオエネルギーによる発電は、2017年で595TWhの発電量で、3番目に大きな自然エネルギーの電力源だった 。熱部門では1EJ以上のバイオエネルギー熱が生産され、液体バイオ燃料は年間1,500億リットルの生産があり、交通部門における脱炭素化に大きく貢献している。

バイオエネルギーセクターは、世界中で社会経済的な発展に大きな影響を与えている。バイオエネルギー産業は、近年は100億ドル近くの投資があり11、現在サプライチェーン全体で高技能労働者300万人以上分を雇用している12
 

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外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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