新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の太陽光発電世界市場への影響

貝塚 泉 株式会社資源総合システム 調査事業部 部長 上席研究員

2020年6月1日

in English


  国際エネルギー機関・太陽光発電研究開発プログラム(IEA PVPS)が最近発表した2019年の太陽光発電の世界導入量はDC容量(太陽電池パネル容量)で115GWであった。COVID-19の感染拡大により、2020年の世界の太陽光発電システム新規導入量は、2019年の115GWを下回る可能性が高い。弊社では、2020年の新設導入量を106~121GWと見ているが、COVID-19の影響が甚大に市場に影響すると想定した悲観ケースにおいては、世界市場は90GW近くまで縮小する可能性もあると見ている。ただし、影響は短期的なものであり、太陽光発電の世界市場は2021年に拡大基調に戻り、太陽光発電は、エネルギー転換にいっそう貢献していくと考えられる。本稿においては、世界の太陽光発電市場におけるCOVI-19感染拡大の影響を概括する。

 太陽電池モジュールの世界最大の生産国である中国においては、旧正月休暇の延長にとも伴い、一部メーカーが工場の稼働や稼働率の低下を報告していたが、中国太陽光発電産業連盟(CPIA)によると概ね2月末までに工場の稼働率は業界の平均水準まで回復しており、4月時点では、中国における生産、物流がほぼ正常化したとの報告があり、現状での太陽光発電世界市場への影響は、太陽光発電の導入を進める川下セクタへの影響が深刻である。国や地域によって状況は大きく異なるものの、メガソーラーと称される発電事業用の集中型太陽光発電所については、都市封鎖などによる大規模太陽光発電プロジェクトの許認可や工期の遅れが報告されている。さらに、計画されていた入札の日程が後ろ倒しになったケースも発生している。分散型発電の分野では、経済の不透明性から住宅及び業務用太陽光発電の導入に対する投資判断ができないなどの理由でこの分野の中心市場である欧州や米国で導入が停滞している。感染拡大の収束に従って、これらの直接的な影響は解消され、稼働予定導入量の一部は2021年及び2022年に後ろ倒しされていくものと考えられる。

 直接的な影響に加えて、世界的な経済停滞による影響も報告されている。新規のプロジェクト開発も経済情勢の変化による為替変動により、現地通貨の急落の影響を受けて投資コストが上昇傾向にある。米ドル建てで太陽光発電関連製品を調達している国では、メキシコ、ブラジルやオーストラリアが特に影響を受けており、2021年に系統連系予定のプロジェクト開発は遅延または中止される可能性がある。電力需要が低下したことで出力抑制の増加も各国で報告されており、既存の太陽光発電プロジェクトの採算性に影響がでているケースが発生している。欧州域内では電力取引市場で売電を行う補助金に依存しない太陽光発電所(Merchant PV)が稼働を開始しているが、電力需要の変化により、電力取引価格が下落したことで、プロジェクトの採算性が悪化しており、新規の同様のプロジェクトの資金調達が困難になることが懸念されている。
このような状況を背景にクリーンエネルギーへの転換の減速が懸念されているが、エネルギー転換の潮流が大きく後退することはないと筆者は考えている。国際エネルギー機関(IEA)が最近発表した世界のエネルギー分野における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響に関するレポート「Global Energy Review 2020」によると、電力需要が大幅に低下した結果、石炭、天然ガス、石油の需要が大幅に減少している一方で再生可能エネルギーの比率が上昇している。2020年第1四半期の世界の発電量における再生可能エネルギー比率は前年同期の26%から約28%へ上昇しており、ベルギー、イタリア、ドイツ、ハンガリー、米国東部などで1時間あたりの再生可能エネルギー比率の最高記録が更新されており、電力需要を担う主力電源としての役割がますます顕著になっている。今後の新しい生活様式のベースとなる持続可能でレジリエント社会では、分散型電源としての太陽光発電が大きな役割を果たしていくことが期待される。

 感染拡大の終息につれて、今後はCOVID-19による経済停滞からの復興が最重要課題となっており、各国政府は様々な取り組みを打ち出している。たとえば、欧州連合(EU)は、パンデミックの終息後の経済回復戦略においてグリーンエネルギーへの転換等を中心に構築することで合意し、2019年に発表した気候変動対策「欧州グリーンディール」と連動する景気回復行動計画ロードマップの作成を開始するよう加盟国及び関係機関に要請した。5月には欧州委員会(EC)は、パンデミックの終息後の経済回復戦略においてグリーンエネルギーへの転換等を中心に構築する方向性を示している。具体策として、今後2年間で計15GWの再生可能エネルギー・プロジェクト入札が実施されることが明らかにされた。その他の施策を下表に示す。

 COVID-19により、社会に大きな変革がもたらされるのは明らかである。再生可能エネルギーに限定されるわけではない、明日を担う技術や新たなビジネスモデルへの投資が進展されていくことが望まれる。我が国おいても持続可能でレジリエントな社会の実現と気候変動変動対策への貢献を促す施策が推進されていくことを期待したい。

 
表1 経済刺激策としての再生可能エネルギーや太陽光発電システムの導入を提案している国
 
出典:(株)資源総合システム調べ
 
  •  
  • 貝塚 泉
    株式会社資源総合システム 調査事業部 部長 上席研究員
    国際エネルギー機関・太陽光発電システムプログラム(IEA PVPS)タスク1(情報交換部会)の日本代表を2003 年から務める。IEA PVPSによる年次報告書Trends in Photovoltaic Applic Ations”の執筆者の一人でもある。2017年11月に第27回太陽光発電国際会議(PVSEC-27)において、太陽光発電の普及や事業に貢献した人物を表彰するPVSEC特別賞を受賞した。Inter Solar、EUPVSEC等、国内外の太陽光発電関連国際会議やシンポジウムで講演している。

コロナ危機特設ページトップ

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

当サイトではCookieを使用しています。当サイトを利用することにより、ご利用者はCookieの使用に同意することになります。

同意する