[寄稿]今こそ21世紀のエネルギーシステムを構築するときだ

パトリシア・エスピノーサ 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局長 / フランチェスコ・ラ・カメラ 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)事務局長

2020年5月29日

in English

8兆ドルが対ウイルス経済刺激策として投入される中、クリーンで強靭なエネルギーは安全で戦略的な投資選択

 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は人類に苦しみを蔓延させ、世界経済を不安定化し、世界中の何億もの人々の生活を根本から覆すという、近代史の中で他に類を見ない世界的な健康危機をもたらしている。
 
 新型コロナウイルスは、目下、人類が直面している最も喫緊の脅威である。しかし、気候変動こそが長期的に私たち人類が直面する最大の脅威であることを忘れてはならない。2019年は観測史上2番目に暑い年となり、史上最も暑い5年間を締めくった。
 
 気候変動の影響は現実のものである。ハリケーン、山火事、洪水は、2019年だけで世界に1500億ドルもの被害をもたらした。保険会社は、新型コロナウイルスの発生以前に、気候変動がもたらす自然災害が過去10年増加し続けており、ビジネスと経済の損失も上昇すると予測していた。
 
 先ごろアントニオ・グテーレス国連事務総長が述べたように、今は後退する時ではないのだ。
 
 二つの危機への対応は、相乗効果をもたらす可能性がある:新型コロナウイルスからの世界的な復興は、世界を安全で健康的で、公正かつ持続可能な未来へ導くことが出来る。
 
 気候変動に関するパリ協定と、持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)は、行動のための明確な国際的枠組みを提供し、世界中の人々と地球に対するわたしたちの共通した責任を含有している。包括的で強靭で持続可能な、誰一人取り残さないビジョンを示している。
 
 2020年は、気候変動対策の国が決定する貢献(NDCs:Nationally Determined Contributions)の改定がパリ協定に基づき提出される期限の年であることを再認識しなければならない。まさに、クリーンな移行を加速し、回復と持続可能な開発の計画を新たな貢献に組み込む最適なタイミングである。
 
 急速な脱炭素化には、前例のない政策イニシアティブと投資が必要である。明確な長期目標と、対象を絞った公共投資および適切な市場インセンティブの組み合わせこそが、企業の迅速かつ確固たる行動を可能にする。
 
 これまでに、世界各国政府は8兆ドルにおよぶ経済パッケージを発表している。この額は今後数カ月、数年間に渡って拡大するだろう。そこに盛り込まれた対策が、インフラ、社会的な計画や政策など、多岐にわたる分野で国際的に合意に示されたビジョンを後押しする方法はたくさんある。
 
 先日公表された国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告書「世界の再生可能エネルギーの展望(Global Renewables Outlook)」は、より持続可能な、公正で強靭な経済と社会を構築する方法を示している。
 
 再生可能エネルギーを基盤としたエネルギー転換は、再生可能エネルギーとエネルギー効率の取組の拡大を可能にするインフラ投資が必要だ。これには柔軟性を提供する送電網やエネルギー貯蔵、グリーン水素、その他さまざまなクリーンエネルギー技術とそれらを可能とするインフラが含まれる。
 
 また、この報告書では、革新的な解決策の進展により、これまで脱炭素化が困難とされてきた、航空、貨物輸送、重工業においても転換が可能となることを示している。21世紀にふさわしいエネルギーシステムへの投資は、脱炭素化を達成するだけではなく、2050年までに世界のエネルギー部門における雇用を1億人までに引き上げるだろう。さらに、世界のGDPを2.4%押し上げ、上昇分は2050 年までの累計で98 兆ドルに達する。
 
 パンデミックによる経済的影響は広範囲にわたり、再生可能エネルギーを含む多くの分野に悪影響をおよぼしている。ただし、特にエネルギー転換がこの困難な時期にさまざまな解決策をもたらすため、再生可能エネルギー分野への影響は他の経済分野へのものとは違う可能性がある。
 
 多くの再生可能エネルギー技術は比較的迅速に成長させることができるので、産業を復活させ、新しい雇用を創出するのに役立つ。最近の原油価格動向と化石燃料への投資利益に対する予測不透明性の高まりは、再生可能エネルギー事業への傾斜をさらに強化させる。
 
 迷っている場合ではない。今がまさに化石燃料の補助金を削減してクリーンエネルギーへ転換することを、遅滞なく行う時である。
 
 私たちは岐路に立たされているが、選択肢は明らかだ。クリーンで、柔軟性に富み、強靭なエネルギーシステムは、不確実な時代に安全で戦略的な投資の選択肢となり、世界中で喫緊に必要とされている気候に配慮した解決策を提供する。
 
 今、これまで以上に、公共政策と投資判断が、強靭で持続可能な経済と社会を支えるための長期目標と合致していなくてはならない。健康と気候の二つの危機に同時に取り組み、総合的で経済全体を見据えた視点を適用すれば、世界は、「より良く回復」するだけでなく、すべての人々にとって、より健康的で、クリーンで、繁栄したものとなる。

※この寄稿は、公益財団法人 自然エネルギー財団が、執筆者から許諾を得て翻訳を行った「Now's the Time to Build a 21st Century Energy System」(13 MAY 2020,  THOMSON REUTERS FOUNDATION NEWSに掲載された記事 )の非公式な邦訳版です。英語オリジナル版と日本語版に齟齬がある場合は、英語版の記述が優先されます。
 

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外部リンク

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