バイオエネルギー持続可能性の確保はこれからが本番平成30年度調達価格算定委員会の議論を受けて

相川高信 上級研究員 自然エネルギー財団

2019年2月1日

2018年度の調達価格等算定委員会では、バイオエネルギー燃料の持続可能性に関する議論に多くの時間が費やされた。筆者も12月20日に開催された第43回の委員会に専門家として招聘され、意見を述べたi

その後、2019年1月9日に開催された最終委員会では、大まかな方向性が合意されたものの、詳細については、別途設置されるワーキング・グループ(以下WG)において、専門的・技術的な検討を行うことになり、これからの議論が重要である。

そこで本コラムにおいては、今年度の議論のポイントについての解説を行うとともに、WGの議論に向けた課題を整理したい。

新燃料をどのように取り扱うか?

2018年度に、2つの業界団体から、固体・液体それぞれの燃料について、新たにFiT対象として認めてほしいという要望が提出されたii。議論のポイントの第一は、これらの多種多様な燃料をどのような視点で整理し、FiT対象の可否を判断するか、ということだった。

整理の視点として、まず重要なのは、生産から廃棄までのどの段階で、燃料が生産されるかという点である(図)。例えば、廃棄物であればエネルギー利用に伴う環境負荷やリスクは小さい。一方、新たにエネルギー利用目的の作物を栽培する場合は、耕作放棄地のような未利用地であればよいが、森林の開発や既存の農地の転換につながる恐れがある。しかも、植物油のように、食糧と競合する恐れがある場合は、特に慎重な取り扱いが求められる。

また、今年度要望のあった燃料には、EFB(Empty Fruit Bunches)iiiなど加工段階も含めた環境負荷の確認が必要なものも含まれていた点に注意が必要である。EFBは、含まれるNa、K、Clなどを洗浄・改質してペレット化する必要がある。これにより高濃度有機性排水が発生するため、環境汚染の原因になりうることが指摘されているiv。したがって、このような加工工程の環境負荷も含めて、適切に評価が行われる必要がある。
 
図:バイオエネルギー燃料の生産から廃棄までの段階と環境負荷
出典)EU Renewable Energy Directiveによる分類を参考に、自然エネルギー財団作成
 

持続可能性基準の証明に使う認証はどのようなものが適当か?

これらの様々な燃料について、持続可能性を証明するツールとして、持続可能性基準がある。したがって、どのような認証スキームを用いることができるかという点が、WGにおける重要な論点となる。

実は今年度、どのような認証スキームが適切かという問題が、パーム油に関して、すでに発生している。パーム油は、持続可能性に関する様々なリスクが存在し、化石燃料より環境負荷が大きいケースすらあり得るv。日本では、2017年度までに、そのリスクを鑑み、世界的に信頼性の高いRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議)を利用可能な認証スキームとして例示し、高いレベルでの持続可能性の確保を求めることになった。ところが、2018年度になり、RSPO取得のハードルが高いことを理由に、ISPO(Indonesian Sustainable Palm Oil:インドネシア持続可能なパーム油)とMSPO(Malaysia Sustainable Palm Oil:マレーシア持続可能なパーム油)を同等のものとして認めてほしい、という業界団体の要望が出された。

しかし、既存研究がすでに明らかにしているようにvi 、ISPOやMSPOをRSPOと同等と認めることは難しい(表)。そもそも、第三者認証は、消費者が法律の遵守レベルよりも高い水準の要求を行い、供給者がそれに応えることでプレミアムが発生するという市場原理を活用している。つまり、RSPOなどの民間の認証スキームは、生産国の法律を上回る水準の要求をしている場合が多い。しかし、ISPOとMSPOは、それぞれインドネシアとマレーシア政府が保有する制度であり、基準の多くが国内法の遵守レベルに留まっている。

加えて重要なのは、制度運用の透明性である。例えば、厳密な認証を行うため、制度保有者は、認証の最終決定には関与しないのが一般的である。しかし、ISPOでは、認証の最終決定をインドネシア政府が行っており、透明性に難点がある。

ただし、各認証スキームが改善に努めていることは事実であり、今後の「同等判断」は否定できない。また、PKS(Palm Kernel Shell)viiなどすでにFiT対象となっていた燃料についても、今後、持続可能性の確認を行っていくことになった。認証はあくまでも証明ツールであり、どのような事項を証明させることが必要なのか、燃料のリスクに応じた包括的な議論が必要である。
 
表:主なパーム油認証の比較
出典)DG Environment (2017), Study on the environmental impact of palm oil consumption and on palm oil consumption and on existing sustainability standardsに基づき作成
 

今後のWGはどのように設置されるべきか?

調達価格算定委員会の複数の委員からの発言もあり、WGの議論はスピード感を持って行われることが期待されている。しかしながら、特定の事業者や業界の影響を排除した適切な人選が重要であり、議論は客観的データに基づいて行われる必要がある。

また、バイオエネルギー燃料の持続可能性確保の取組は、欧州が先行しており、その知見を活かしつつ、国際的な調和を図る必要がある。この分野で、国際的にリーダーシップを発揮しているのがIEA Bioenergyである。IEA Bioenergyは、2018年9月に東京で国際ワークショップを開催し、日本の積極的な参加と、燃料生産・輸出を行う側のアジア諸国との対話の強化が期待されているviii

最後に、WGが果たすべき重要な機能として、発電所が用いる燃料のモニタリングを挙げることができる。まず、非認証燃料が混合するリスクを避けるため、発電所を含むサプライチェーンが認証を取得する必要がある。次に、RSPOなどの第三者認証では、認証取得者に対して年次監査及び、3-5年に一度の頻度での更新審査が行われるため、認証の取得・維持状況を確認する必要がある。これら個別の発電所のチェックに加え、FiT制度による燃料利用に関するマクロなレベルでの影響についても、環境・社会的な観点からモニタリングし、必要に応じて制度を調整・改善していく必要がある。


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外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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