自噴する110℃の温泉で地熱バイナリー発電岐阜県の奥飛騨温泉郷に新たな収益もたらす

石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

2019年6月21日

 岐阜県と長野県の県境にある奥飛騨温泉郷で、温泉を利用した小規模な地熱発電所が2017年10月から運転を続けている(写真1)。発電所の中央にある源泉から110℃の温泉が自噴して、地域の旅館に温泉を供給する役割を担う。自噴する温泉の熱を利用することで蒸気を発生させ、40kW(キロワット)の電力を作り出す。約100世帯分の使用量に相当する電力を供給できる。地熱発電を機に、地域を活性化させる新しい収益事業の可能性も広がってきた。
 
写真1 「奥飛騨第一バイナリー発電所」の全景。中央が源泉、左が温泉造成槽、右がバイナリー発電装置

温泉組合が発電設備の日常点検を実施する体制に

 発電所にある源泉を所有・管理するのは地元の温泉組合である。豊富に湧き出る温泉の有効活用と設備の維持管理を目的に、温泉組合が中心になって2016年5月から地熱発電所の検討に着手した。さらに長崎県の温泉で地熱発電所の建設・運転実績があるシン・エナジー(当時の社名は洸陽電機)が事業者として検討に加わり、約1年半後に「奥飛騨第一バイナリー発電所」の運転にこぎつけた。
 
 地熱発電所の建設にあたって最大の課題は、旅館に供給する温泉の温度が従来と比べて低下しないことだった。源泉から湧き出た温泉の熱を発電に利用すると、その過程で温泉の温度は下がる。これは旅館にとっては重要な問題である。シン・エナジーが試算したところ、発電機の出力を50kW未満に抑えると、発電に伴う温泉の温度低下は1~2℃で済むことがわかった。現在の源泉(写真2)は古い源泉の代わりに温泉組合が新たに掘削したもので、以前よりも湧出量が多かったため、発電に伴う若干の温度低下は問題ないと判断した。

写真2 地熱発電に利用する源泉の地上部分。地中につながる湧出口(右)

 ただし温泉の温度が低下する場合に備えて、源泉から発電設備に温泉を送る管にバルブを付けた。温泉組合の判断でバルブを閉めることができ、発電によって温度の低下が生じた場合にはバルブを閉めて発電設備に温泉が循環しないようにすることができる。加えて発電設備の日常点検の業務を温泉組合が請け負うことで、給湯と発電を一体的に運用できる体制を構築した。
 
 温泉組合には日常点検の作業費に加えて、源泉の使用料が発電事業者から支払われる。この源泉の使用料は、地熱発電の売電収入から運転維持費を引いた利益の半分で計算する契約になっている。売電収入が増えれば、温泉組合に入る源泉の使用料も増える。温泉組合と発電事業者が協力して地熱発電を推進できるスキームである。奥飛騨温泉郷では新たに出力250kWの地熱発電所を建設する計画も進んでいる。
 
 さらに発電に利用した後の温泉の一部を使って、温泉組合と発電事業者が共同で錦鯉の養殖に挑戦中だ。養殖池に温泉を流し入れることで、錦鯉の生育に適している約24℃の水温を維持する(写真3)。光熱費がかからない利点があるほか、地域内で増えている空き地の有効活用にもなる。最近では中国をはじめ海外で錦鯉の人気が高まっているため、海外からの観光客を誘致する手段としても期待できる。

写真3 温泉を利用した錦鯉の養殖池。右側に見えるパイプから温泉を供給

 源泉の有効活用を目的に始まった地熱発電プロジェクトから、新しい事業が生まれようとしている。地熱発電所を建設するまでの経緯、発電設備の詳細、現在の課題や今後の計画などをレポートにまとめた。

 

外部リンク

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