連載コラム ドイツエネルギー便り

脱原発と自然エネルギー推進を応援するシェーナウ電力会社

2016年8月4日 田口理穂 在独ジャーナリスト

南ドイツの黒い森に位置するシェーナウ電力会社は、チェルノブイリ原発事故後の反原発運動をきっかけに市民がつくった電力会社である。脱原発と自然エネルギーを推進し、現在はドイツ全土16万の顧客に自然エネルギーを供給している。

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「夢見るドイツ」論の誤解

2016年8月1日 梶村良太郎 ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー

日本では、ドイツのエネルギー政策について、理想ばかりを追いかける非現実的な行動という論調を見かけることがある。「脱原発も温暖化対策としての自然エネルギー導入も理想としては結構だが、現実はそう甘くない」というような内容だ。多少の差異はあるが、「夢見るドイツ」に「現実的」な立場から斬り込む、という構図は共通している。

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ドイツの市民と自然エネルギーの電力会社

2016年7月15日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

 今年4月から、日本でも、家庭や小規模需要家の小売り電力市場が自由化された。自然エネルギーを支援したいと、新しい電力メニューを検討した方もいるだろう。すでに、自然エネルギー電力が30%を超えるドイツでは、自然エネルギーからの電力を選ぶ家庭や小規模ビジネスも一般的になっていて、2010年には409万人だった自然エネルギー電力の利用者が2015年には852万人にまで増えている 1 。実際にドイツで自然エネルギー電力を購入する場合はどうするかのだろうか。

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これから必要なのはバッテリーの導入やインテリでフレキシブルな消費?

2016年7月5日 ツェルディック・野尻 紘子 ジャーナリスト 哲学博士

ドイツではこのごろよく「自然電力普及のための援助が必要だった時代は終わった。エネルギー転換は第二の段階に入った」と耳にする。

自然電力が総発電量の約3分の1を占めるようになったこの国では、普及の援助は確かにもう要らない。自然電力は増え続けており、電力は市場に溢れている。ただ、自然電力の発電量は天候に左右され、多い時と少ない時がある。今の所、少ない時は従来型の発電所で生産される電力で補充される。多過ぎる時は停電などの危険を防ぐために、火力発電の出力を縮小したり、電力を輸出に回したり、或いは風力発電設備を止めたり、太陽光パネルとの接続を切ったりしている。自然電力がこれ以上増えた場合にも電力の安定供給を保ち、また無駄を無くすためには、 余剰電力を一時的に蓄えるバッテリーの導入やインテリでフレキシブルな消費が不可欠になる。

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ハンブルクの水素バス、風力発電の余剰電力活用の試み

2016年5月16日 田口理穂 在独ジャーナリスト

ドイツでは気候保護政策のひとつとして、交通分野での改革が必要との認識がある。温室効果ガスの排出量を減らすため、ガソリンやディーゼルの代替として、電力やバイオディーゼル、バイオガス、燃料電池が注目されている。今回は燃料電池、いわゆる水素を燃料としたハンブルクの路線バスを紹介したい。

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ドイツの火力発電の発電量は減少している
-長期的な脱石炭の道のり-

2016年4月26日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

 自然エネルギーは不安定な電源のため、バックアップ電源が欠かせないという論調がある。さらに、再生可能エネルギー法によって自然エネルギーが増加するにつれ、電力システムの安定化のために褐炭・石炭による火力発電が増加し、CO2排出量も増加しているという。果たしてこれは事実だろうか。

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福島第一原発事故から5年 ドイツのエネルギー転換の今

2016年4月18日 田口理穂 在独ジャーナリスト

福島原発事故から5年を迎え、ドイツでは震災や原発事故に関するさまざまな催しが開かれている。私の住むハノーファーでも、市庁舎で東日本大震災を振り返る催しや、第二次世界大戦で屋根が抜け落ちたままになっている教会で被災者への追悼式が行われた。ハノーファーは広島市と姉妹都市提携をしているため、原爆や原発の話題に敏感だ。福島で起こったことを忘れないという意志を新たにしている。

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「電力を通じて、未来を選ぶ」

2016年1月25日 田口理穂 在独ジャーナリスト

1996年より北ドイツのハノーファーに住んでいる。ドイツは電灯の明るさも控えめで、倹約とろうそくが好きなためか、日本と比べて暗い印象がある。しかし、自動販売機や24時間営業のコンビ二がなくても不便はなく、暮らしやすい。

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ドイツのパン屋が脱原発のせいで潰れているのは本当か?

2015年12月25日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

 先日、ドイツの伝統的なパン屋が危機に陥っているという日本のメディアの記事を読んだ。パン職人を目指す若者が少なくなっていること、脱原発政策のために電気料金が倍増したことが原因だという主旨だった。

 町のパン屋にとって脅威となっているのは、ディスカウンターと呼ばれる全国規模のパン製造業者である。彼らは大型スーパーなどに安価なパンを大量に出荷しており、家族経営のパン屋は価格競争に勝てない。これに脱原発による電気料金高騰が追い打ちをかけている、という主旨であった。

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「気候行動プログラム2020」によって、さらなる温室効果ガス削減を目指すドイツ

2015年11月20日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

 11月30日から12月11日まで、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)第21回会合(COP21)がフランスのパリで開催される。この国際交渉の場で重要な役割を担う国の1つであるドイツは、2007年に温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で40%削減することを短期的な目標に定めた。しかし、ドイツの2014年の温室効果ガス削減率は27%(推定値)となっており、現時点で目標の達成は厳しいと見られている。

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多くの市民の同意を得ているドイツの自然エネルギー賦課金額

2015年11月2日 一柳絵美 自然エネルギー財団 研究員

ドイツの送電事業者4社は10月15日、自然エネルギー促進のための来年の賦課金額を6.354ユーロセント(約8.6円)/kWhと発表した。2015年の賦課金額は6.170ユーロセントで前年より微減していたが、2016年の賦課金額は再び微増した ⅰ 。賦課金の影響による電気料金上昇にドイツの消費者は反対しているという報道があるが、当の消費者は、賦課金額をどう捉えているのだろうか。

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気候変動対策は小さな自治体ほど向いている
「小さな自治体、大きな気候保護」報告書より

2015年9月28日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

ドイツ国内には、「100%再生可能エネルギー地域」に認定されている自治体がすでに87カ所、現在認定に向けて取り組んでいる自治体が59カ所ある(2015年7月現在) ⅰ 。これらは地域としての取り組みで、自家消費用設備などを含めれば、「100%再エネ地域」の数はもっと多いだろう。その多くは中小規模の自治体であるが、これらの地域に住む住民の数を合計するとドイツ人口の約3分の1の2600万人にものぼる。

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ドイツなしには成り立たないフランスの電力

2015年9月7日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

ドイツの再エネが拡大し、脱原発も順調に進んでいると聞けば必ず出てくるのが「でもドイツはフランスの電力を輸入しており、原発の電力を使っているではないか」という反論だ。

フランスとの関係を見る前にドイツだけを見れば、物理的な電力フローではドイツは35.7TWhの輸出超過であり ⅰ 、発電容量もピーク時をゆうに上回る設備を抱えており、あえてフランスから電力を輸入する必要はない。

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ドイツ、再エネ8割でも電力供給は安定

2015年9月2日 一柳絵美 自然エネルギー財団 研究員

2015年8月23日の13時、再生可能エネルギーがドイツの電力消費の84%をカバーした(参考値)。ドイツの大手環境シンクタンク、アゴラ・エナギーヴェンデの速報による。7月25日には78%を記録というニュースが流れたばかりだったが、あっという間に史上最高記録がまた更新されたことになる。アゴラ・エナギーヴェンデのグライヒェン所長は、「興味深いのは、電気料金はプラスのままで、化石燃料による発電で17GWの新たな電力輸出記録を樹立したことだ」と分析する ⅰ 。暫定記録ではあるものの、8割の大台に到達したのは初めてのことだ。

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ベースロード電源が邪魔者になる日(その2)

2015年8月11日 梶村良太郎 ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー

前回のコラムでは、自然エネルギーの拡大にともなって、なぜベースロード電源が邪魔になるか、ドイツで既定路線となっているシステム論をもとに説明した。風力や太陽光といった変動型自然エネルギーが増えると、系統運用に追従するという柔軟性(フレキシビリティ)に欠けるベースロード電源は、必要以上に余剰電力を生み出す足かせとなる。

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エネルギー貧困の原因を経済省の資料から読み解く

2015年7月24日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

日本ではドイツのエネルギー転換についての評価が錯綜している。評価は多様であってしかるべきだが、最も実情をよく知る当事者、連邦経済エネルギー省(BMWi)がエネルギー転換をどう評価しているかを知っておくことは大事だろう。

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原発停止に沸くドイツ-原発停止分を自然エネルギーが補完

2015年7月16日 一柳絵美 自然エネルギー財団研究員

6月27日の23時59分、ドイツの脱原発の歩みを更に進める瞬間が訪れた。稼働中の原発の中で最も古いドイツ南部の原発が、33年の時を経て運転停止を迎えたのだ。運転停止を祝うために原発の周りに集結した人々はピクニックを行い、ついに訪れた“その時”を花火で彩った。ドイツでの原発停止は、東京電力福島第一原発事故を受けて、2011年に8基を停止させて以来の出来事だ。脱原発を掲げるドイツでは、2022年末までに残りの原発8基も段階的に停止される。

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日本にはどうして、ドイツのエネルギー転換が「失敗」と伝わるのか

2015年7月16日 ツェルディック・野尻 紘子 ジャーナリスト 哲学博士

日本の方から「最近、ドイツのエネルギー転換が失敗しているという報道がますます増えている」という話を 聞いて、不思議だ、そんなことはないのにどうしてだろうと思う。現実はその反対で、道程は長いが、この国のエネルギー転換は 着実に進んでいる。再生可能エネルギーによる発電量は増加を続け、昨年はドイツの総発電量の26.2%に達した。この6月末には、ドイツ南部、バイエルン州のグラーフェンラインフェルト原発が停止したばかりだが、その後で、電力の安定供給に支障が出たという話は一切聞いていない。そしてドイツでは7月初めに、二酸化炭素排出量の多い褐炭火力発電所2.7GW分の停止が決まり、二酸化炭素の排出量を2020年までに1990年比で40%削減するための目処が立ったところだ。

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ベースロード電源が邪魔者になる日

2015年6月18日 梶村良太郎 ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー

日本の2030年のエネルギーミックスを巡る議論を追っていると、ベースロード(基本需要、最低需要)という単語が目につく。原子力や一部の火力、水力発電がベースロードを賄う電源として一定の評価を得ている一方で、太陽光や風力といった自然エネルギーは天気任せなため、そのような役割を全うできないという論調が多いように思える。これは、私が身を置いているドイツでは、めっきり聞かなくなった話だ。それもそのはず、自然エネルギーが中心となる電力システムでは、ベースロード電源は不要で、むしろ弊害となる。

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「エネルギー転換」対「日食」 — 1対0

2015年5月1日 ツェルディック・野尻 紘子 ジャーナリスト 哲学博士

ドイツの連邦議会が15年前に再生可能エネルギー優先法(略称:再生可能エネルギ法、EEG)を議会決定した際に、日食になると太陽が月に覆われてしまい、そのため太陽光発電が途絶えることを考えた議員はいただろうか。そして日食の特に開始時と終了時に、太陽光発電が全国で一斉に減ったり増えたりして、送電網の周波数や電圧を乱す恐れがあり、停電のリスクが高まることを想像した議員はいただろうか。多分皆無だっただろう。しかし、そんな事態がこの3月20日ドイツで起きた。欧州広範囲で日食があったからだ。

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石炭、原子力、自然エネルギーの本当のコスト

2015年4月17日 一柳絵美 自然エネルギー財団研究員

3月上旬、来日を直前に控えたメルケル首相は、ビデオメッセージを公開して日本にエネルギー転換を呼びかけ、ドイツと日本がともに歩んでいくべきだという考えを示した。また、来日時の講演では、科学者として、今まで長い間核の平和利用(原子力発電)をすすめてきたが、その考えを変えたのは、日本という高度な技術水準を持つ国でも福島原発のような事故が起きたからであること、ドイツは別のエネルギー制度を築き上げると決めた、と語った。首相の発言のとおり、ドイツでは着実に自然エネルギーが増加し、すでに基幹電源としての地位を築いている。

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再エネが最大の電力源になったドイツ CO2排出量減少へ

2015年2月5日 一柳絵美 ベルリン自由大学環境政策研究センター 修士課程

2014年はドイツのエネルギー政策にとって大きな転換の年だったといえる。夏には、ドイツの再生可能エネルギー推進の大きな原動力となってきた再生可能エネルギー優先法(EEG)が改正された。そして、冬にはドイツ最大の電力企業エーオン(E.ON)が、原子力・火力発電事業を本社から切り離し、再生可能エネルギーを中心とした事業に特化することを発表した。2022年末までの脱原発を決め、再生可能エネルギーへと移行する「エネルギー転換」を進めるドイツが次のステップを踏み出した今、昨年の成果を振り返ってみる。

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軌道に乗ってきたドイツの洋上風力発電

2015年1月29日 ツェルディック・野尻 紘子 ジャーナリスト 哲学博士

進展の遅れていたドイツの洋上風力発電が、軌道に乗ってきたようだ。海の中での土台の構築や風車が取り付けられる柱の建設に問題が生じたり、送電網が欠けていたり、接続が上手くいかなかったりした過去の問題が克服されたからだ。2014年末に稼働していた北海とバルト海洋上の風力発電装置の出力は合計で1050MWだった。これは原子炉約1基分に相当する。装置はそれぞれ、年間平均4000〜4500時間稼働すると想定されている。

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検証 ドイツの電気料金

2014年12月12日 一柳絵美 ベルリン自由大学環境政策研究センター 修士課程

ドイツの電気料金が、年々上昇していると議論になっている。事実、年間3500kWhの電力を消費する一般家庭の支払う電気代は2014年現在、平均84.96ユーロ(約11,900円)で、電力市場の自由化が始まった1998年の49.90ユーロ(約7,000円)と比較するとおよそ70%上昇した ⅰ 。そして、メディアでは、再生可能エネルギー促進のための賦課金の上昇に伴って、電気料金も吊り上がっているという論調が年々増えている。しかし、その実態を理解するためには、まず電気料金のしくみを知る必要がある。そこで今回は、ドイツの電気料金の構造や賦課金の動向を分析してみる。

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真の電気料金

2014年10月8日 ツェルディック・野尻 紘子 ジャーナリスト 哲学博士

ドイツでのエネルギー転換に関する話は、どうして昨今の電力料金の値上がりが中心になってしまったのだろうか。太陽光や風力発電を促進するために消費者が電力料金に上乗せして支払う賦課金の増加が、電気料金の高騰を引き起したからだろうか。ドイツ連邦議会議員のニナ・シェーアさんは、「現在のディスカッションは正当でない」と語る。発電にかかる全ての経費が一部の電気料金に反映されていないからだ。

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新記録達成 ドイツの再生可能エネルギー

2014年9月25日 一柳絵美 ベルリン自由大学環境政策研究センター 修士課程

ドイツの再生可能エネルギーが、更なる新記録を打ち出した。ドイツ・エネルギー水道事業連盟(BDEW)の発表によれば、2014年上半期の電力消費に占める再生可能エネルギーの割合が、過去最高の28.5%に到達することとなった ⅰ 。この値は、前年同時期の24.6%と比較して、約4%増加した計算になる。ドイツは、2025年までに総電力消費の40~45%、2035年までに55~60%、そして2050年までに80%を再生可能エネルギーでまかなうという目標達成にむけて、着実に歩みを進めている。

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24年目の快挙と、これから先

2014年9月16日 梶村良太郎 ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー

2014年上半期、ドイツの自然エネルギーは消費電力の28.5 パーセントという記録的な数字をマークした。15.4パーセントの原子力、25.1パーセントの褐炭火力を上回り、遂に最重要電源の地位に昇り詰めたのだ。1991年施行の「電力供給法」(Stromeinspeisegesetz)で初めて自然エネルギーの固定価格買取制度(FiT)を導入してから、足掛け24年目の快挙だ。

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ドイツの市民の93%が重要視するエネルギー転換

2014年7月11日 一柳絵美 ベルリン自由大学環境政策研究センター 修士課程

8月に、『再生可能エネルギー優先法』(略称:再生可能エネルギー法、EEG)改正の施行が予定されているドイツ。一般家庭の電気料金の負担が増えるなか、ドイツの人々はどのようにエネルギー転換(Energiewende)を受け止めているのだろうか。各種世論調査の結果をもとに、エネルギー転換に対するドイツ人の民意をまとめた。

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ドイツの「再生可能エネルギー法」見直しは成功の証

2014年7月11日 梶村良太郎 ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー

去る6月27日、ドイツの『再生可能エネルギー法』(Erneuerbare-Energien-Gesetz 略称EEG)の改正法案がベルリンの連邦議会を通過した。EEGといえば、ドイツの自然エネルギー導入の原動力といえる法律である。同法が定める「固定価格買取制度(FiT)」のおかげで、自然エネルギーの電力シェアは大きく伸び、経済、気候保全などの各局面で今や欠かせない電源へと成長を遂げた。かつては異端の技術とも言われた自然エネルギーの導入促進という、当初の目標は十二分に達成されたといえる。そんな中、今回のEEG改正をどう位置づけるべきか、解説したい。

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