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連載コラム シリーズ 自然エネルギー活用レポート

2017年12月18日

連載コラム シリーズ 自然エネルギー活用レポート

シリーズ「自然エネルギー活用レポート」No.9〈概要版〉
太陽光・風力のハイブリッド発電所
―愛知県・渥美半島の臨海工業地帯に展開―

北風亮 自然エネルギー財団 上級研究員

愛知県南部の渥美半島のほぼ全域を占める田原市は日照量が豊富で、風況にも恵まれている。半島に広がる臨海工業地帯の遊休地で2014年10月に、国内最大規模の太陽光・風力のハイブリッド発電所が運転を開始した。

太陽光発電で騒音抑制、塩害を避ける風力発電

太陽光発電の規模は50MW(メガワット)、風力発電は大型風車3基で6MWである(写真1)。太陽光・風力を合わせた発電電力量は2016年度に約8000万kWh(キロワット時)に達した。これは田原市の総世帯数(約2万2000世帯)の電力使用量に匹敵する。

写真1 「たはらソーラー・ウインド発電所」の全景

田原市内のほぼ全域が年平均風速6~7m/s(メートル/秒)という風力発電に絶好の条件を備えている。臨海工業地帯に広大な遊休地を抱えていた三井化学は、その活用策として当初は風力発電所を建設する案を検討した。しかし検討の過程で全国トップクラスの日照時間があることにも着目。2012年度に固定価格買取制度が始まることから、太陽光と風力のハイブリッド発電所の建設へと舵を切った。

敷地のうち海沿いの部分には、海水のしぶきが強風で飛散してくる。塩害の影響を考えると、太陽光発電の設置は難しい。太陽光発電設備を海から100mほど離してセットバックする必要があり、その緩衝スペースに風車を配置する案を採用した。

一方、海と反対側の発電所の周辺には住宅地がある。風車から生じる騒音の影響を緩和するためには、風車と住宅地の間に500~1000mほどの離隔距離を設けなくてはならない。この点では太陽光発電設備を緩衝スペースとして活用できる。太陽光発電と風力発電の組み合わせによって、塩害対策と騒音対策を両立させることができた。

建設に着工した2012年当時は、国内のメガソーラーの施工例は多くなかった。ましてや風力発電を組み合わせた大規模なハイブリッド発電所は前例がない。建設の段階では想定以上に軟弱な地盤であることがわかり、地盤改良の必要性に迫られた。

それに加えて太陽光発電設備を海岸線から離すとはいえ、塩害対策は欠かせない。太陽光パネルを設置する架台に高耐食性のメッキ鋼板を採用するなどの対策を施した。発電所の構内に3種類の素材を使った架台を設置して比較試験を実施しているが、運転開始から4年目に入った現在でも高耐食性の架台に塩害の被害は見られない。

ハイブリッド発電で収益を向上させる効果

事業化にあたっては、三井グループ6社(三井化学、三井物産、東亞合成、東芝、東レ、三井造船)に中部電力の子会社シーテックを加えた計7社で取り組む体制をとり、事業リスクの分散と各社の技術・ノウハウの有効利用を図った。例えば太陽光発電設備の施工は東芝が、風力発電設備の施工は三井造船が担当した。

ハイブリッド発電は電力系統にもメリットがある。一般的に、気象条件の違いなどから太陽光発電と風力発電の出力は補完関係にあると言われている。たはらソーラー・ウインド発電所では太陽光と風力の設備容量比は約8:1である。このため太陽光発電の出力に大きく影響を受けるものの、「太陽光が単独の場合よりも、風力と合わせたハイブリッドのほうが出力は安定する」(三井化学 次世代事業開発室・塩田剛史氏)。

太陽光の買取価格が高かった時代には、発電事業者は太陽光パネルを最大限に配置することで収益性の向上を図ることができた。しかし太陽光の買取価格が下がり、2017年度には風力と同じ1kWhあたり21円となった。田原市のように日射量と風況の両方に恵まれた地域であれば、太陽光と風力の配置を最適化することで収益の向上を狙うことが可能だ。

大規模なハイブリッド発電所の先駆けになった「たはらソーラー・ウインド発電所」の事業化の経緯や発電設備の詳細を含めて、現地の状況をレポートにまとめた。

外部リンク

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  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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