風力発電事業に対する新型コロナウィルス感染症の影響は?

中村 成人 日本風力発電協会 専務理事

2020年5月11日

in English

 新型コロナウィルス感染症流行拡大は、当初の予想をはるかに超える速度で面的にも大きな拡大をみせ、世界的なパンデミックの事態に至るところとなった。この事態がいつまで続くかも見通せないのが現状ではあるが、我が国の風力発電事業・プロジェクトにも少なからぬ影響を及ぼすことは確実であり、本項では多少の考察を試みたい。

2種類の移動の制約が影響

 <p>日本でも新型コロナウィルス感染症の流行拡大防止のため、国による緊急事態宣言が今月末まで延長され、いわゆる三密を避けるために人の移動を自粛し他人との接触を通常の7割~8割減とすることが目標とされている。国や各自治体から強く要請されている移動の自粛は人的な外出(移動)ではあるが、同時に実際には多くの航空便が欠航となるなど物の移動(物流)にも制約が起きており、二重の移動の制限・制約が働いている。

 多くの場合、これらの制約の結果は、時間的な遅れを伴うことになる。風力発電設備の開発・建設や運営において時間的な遅延は、コストの上昇即ち経済性の悪化を伴うことから、本件感染症拡大の影響が大きく懸念される。

開発から運転・保守まで全ての段階で影響が懸念される

 風力発電事業は大きく分けて、計画段階、建設段階及び運転保守段階の3つの段階に分類することができる。風力発電事業の適地は、一般的には人口の多い都会ではなく人口の少ない地域である。

 従って、事業者は、計画・開発の初期段階から事業が立地する地元に足繁く通い地元自治体や地権者などへの事前説明を行い了解を取得した上で環境アセスメント、系統アクセス、FIT事業認定など所定の手続きを進めることが必要である。

 但し、現在のように人の移動(出張)の制限が実施され事業者の立地地点の地元への訪問が歓迎されない事態となると、多くの手続きが遅延し、最悪は制度上定められた期限の遵守にも支障を来すことも懸念されるところとなる。更に、海外の風車メーカーや国内の工事業者などとの打ち合わせにも支障を来す恐れもあり、これらもプロジェクトの遅れにつながることが懸念される。

 建設段階においても影響が懸念される。例えば、風力発電所を建設するためには事前に技術的な審査を受けた上で工事計画届を提出し、受理される必要がある。現下の情勢においても、従来通りの期間で遅滞なく円滑な審査が行われるのか危惧される。

 加えて、当然ながら製造や輸送など、物理的な制限・制約による影響も懸念される。今や風力発電産業は国境を越えたグローバルな産業であり、サプライチェーン全体を通じた影響が心配される。風車本体は勿論、建設に不可欠な機器・部品は予定されている納期通りに納入され工期は確保できるのか、あるいは海外からの来日が予定される工事のスーパーバイザーは予定通りに来日できるのかなど、心配される点は少なくない。

 運転保守の段階でも大きな影響が出ることが懸念されている。風力発電設備の運転保守は、安全で安定した運転の確保を目的としている。新型コロナウィルス感染症拡大の問題は短期的に収束する気配が見えない。風力発電設備の日常の点検・整備を確実に実施するためには作業員や技術員を計画に合わせて確保し、必要な部品をタイムリーに調達することが不可欠である。場合によっては、大型のクレーンなども遠方から手配・調達する必要もあり、必ずしも容易な業務とは言えない。

 上記の通り新型コロナウィルス感染症拡大の収束には時間を要し風力発電業界への影響も大きなものが想定されることから、現在当協会では全会員を対象に緊急アンケート調査を実施中である。早急に結果をとりまとめ、関係各所に働きかけを行う予定である。

全てが変革する時代へ

 先般米国のWTI原油先物相場が、一時史上初めてマイナスの価格を付けた。今回の新型コロナウィルス感染症拡大の問題は、地球的規模で社会の在り方をあらゆる面で根本から変えようとしているように思えてならない。日本のエネルギー政策、産業の在り方しかりである。

 例えば、エネルギーセキュリティの観点からも再生可能エネルギーの導入が促進されて行くであろう。一方で、風力発電産業の象徴的な存在として風車メーカーがあるが、残念ながら日本の風車メーカーは全て新規の開発・生産から撤退し、我が国には風車メーカーが不在となってしまった。従来とは違う発想、新たな仕組みで再生可能エネルギー導入を促進することになれば、もう一度日本に風力発電産業とサプライチェーンを構築することができないものか、想いを致す次第である。
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  • ​中村 成人
    日本風力発電協会 専務理事
    1972 年 慶應義塾大学法学部卒業、株式会社トーメン入社 (主に電力関係の業務に従事)
    1988 年 フランス・トーメン社
    1992 年 株式会社トーメン 経営企画部次長
    1998 年 同上 電力事業本部第一部長
    2001 年 株式会社ユーラスエナジージャパン 取締役社長
    2004 年 株式会社ユーラスエナジーホールディングス 常務取締役
    2012 年 同上 専務取締役
    2014 年より現職
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